2017年1月18日 家づくりコラム

床下エアコン

エアコンは、外の空気の温度と室内の空気の温度をヒートポンプと言う技術で熱を移動させるだけの機能なので、エネルギー効率がよく、住宅の空調設備としては優位性の高いものであることを以前のコラムでご紹介しました。

 

床下エアコン全館空調システム
https://www.asunaro-studio.com/column/2020/12016155.html

e01_R

住宅設備としては扱いやすく適したものではありますが、「上からの送風となるので床を暖めにくい」「風が不快に感じる」などのデメリットがあります。これを解決したのが『床下エアコン』という暖房システムです。横浜という温暖地においては、「床下エアコン」による暖房システムは、住宅暖房設備として大変優位性が高いものと考えています。

 

●床下エアコンの基本

床下エアコンは上記のような概念で構成されています。市販の壁掛けエアコンを床下に設置し、床下全体を暖め、床下空間に正圧を掛けることで、掃き出し窓足元に設置した吹き出し口から暖められた空気を各部屋に送り込むものです。

冬

このためには、通常の家の作り方とは違い、下記の性能が必要と考えます。

・家全体の高断熱化(UA値で0.5以下)

・家全体の高気密化(C値で0.6以下)

・効率的なプランニング

・空気の流れを阻害しない基礎レイアウト

・空気の循環経路として、吹き抜けなどの縦に繋がる断面計画

・アローファンによる床下と小屋裏の空気循環システム

・全熱交換器による換気システム

床下の空間は地面に設置していることもあり、一日の間でも外気温に左右されず温度が安定した環境です。この安定した空間を暖めてチャンバーのように利用して、家全体に暖かい空気を配るのが床下エアコンの暖房システムです。

IMG_4323

 

●床下エアコンのメリット・デメリット

エアコンのデメリットである「床を暖めることが難しい」「風を感じる」を、エアコンを床下に設置することで解決することができます。

床下エアコンには下記のようなメリットがあります。

・市販のエアコンでよいのでイニシャルコストが安い

・エアコンと言う効率のよい設備を用いているので、ランニングコストが安い

・床仕上げを選ばないので、どんな無垢フローリングでも使用可能

・設置位置が床下となるので、室内で邪魔にならずスペースをとらない

・エアコンなので火災の心配が無く、室内空気も汚染しない

・タイマー制御が可能

・部屋全体を均一に暖めることが出来る

 

デメリットとしては、

・エアコンの台数を多くは出来ないので、家を高気密高断熱化する必要がある

・設置位置が床下となるのでフィルター清掃作業がしにくい

・床下の吹きだし口を設置する必要がある。

・基礎断熱とする必要があり、建設時にコストアップとなる

などがあります。

家を高気密高断熱化する必要があり、これにはそれなりのコストも必要ですが、ランニングコストを大きく削減することが可能となるので、これは数年後にコスト回収が可能となります。また高気密高断熱化による快適さは比較にならないほど良いものです。

フィルター清掃が低い位置となるので、壁付けの場合に比べると少し作業がしにくいものとなりますが、設置の工夫によって解決できます。

IMG_4435_R

写真のようにエアコンの前パネルは簡単に外すことが出来ますので、フィルター清掃も問題はありません。

1階の掃き出しの窓下に床下からの吹き出し口が必要となります。埃の落下などの心配がありますが、園芸ネットを敷くなどで解決できます。

1階の床の断熱を通常の床断熱ではなく、基礎全体を断熱する「基礎断熱」とする必要があり、これは少々コストアップとなります。前述のランニングコストを大幅に削減できるので、数年後のコスト回収が可能となります。

 

●床下エアコンの制御

床下エアコンとした場合、エアコンの温度センサーの誤作動防止、温風のショートサーキット防止、床下空間の正圧の確保のため、室内床とエアコンとの間には写真のような塞ぎ板を設置することになります。

IMG_4420_R

すると「リモコンの赤外線が届かない」という問題が生じます。この解決方法についてはブログの記事をご参照下さい。

https://www.asunaro-studio.com/blog/sekio/import/blog/2016/12/post-bfb7.html

IMG_5852

床下の温度環境は、基礎断熱がしっかりしてあれば、外気温が5度以下となるような時でも19度くらいで安定した温度を保っています。床下エアコンは高温設定にする必要はなく、25度程度の温度設定で十分に床下を暖めることができます。

 

●床下エアコンの設置位置

この設置位置は床下にまっすぐ温風を噴出すことが出来るので、基礎下の家の隅々まで温風を届かせることが出来るメリットがある一方で、リモコン受信部が床下に潜ってしまっているのでエアコン付属のリモコンが使えないというデメリットがあります。そのために、やむなくもっと高い位置にエアコンを設置している
方も多くいらっしゃいます。

IMG_4422_R

あすなろ建築工房で施工する「床下エアコン」仕様の住宅の場合、床下エアコンの設置位置は、写真のように効率を考えて頭だけ床上に見える状態に設置しています。高気密高断熱でパッシブな家づくり住宅設計の第一人者である西方設計の西方先生の考えに倣っています。

 

●床下エアコンでの温熱環境

床下エアコンの温度設定は25度を標準としています。横浜のような温暖地であれば、外気温が氷点下に下がるようなことは稀で、特に寒い日でなければ、床下エアコンを稼動させる時間は、夜の7時から寝る前の11時位の4時間と朝起きる前の6時前から7時過ぎの2時間程度で十分です。

IMG_5856_R

朝の5時過ぎに運転を開始し、40分くらいで25度に到達します。朝起きてくる7時過ぎには、1階のリビングの室温は21度になっています。

IMG_0002_R

エアコン設置付近の床の温度は21度前後です。

IMG_9996_R

窓付近では20度前後です。

IMG_9999_R

吹き出し口の温度は当然ながら25度前後となります。

IMG_0007_R

キッチンの床は20度前後です。

IMG_0015_R

北側のトイレの床も20度をキープしています。

IMG_0005_R

エアコンから遠い玄関土間でも19度前後です。

IMG_0019_R

エアコンから一番遠い浴室では18度前後となります。

以上のように1階の床の温度差は3度以内に収まっていて温度差の無い環境となっています。

 

●床下エアコンの設置費用

床下エアコンを設置する場合、その能力や機能については、慎重に選定する必要があります。家の断熱性能が高ければ、エアコンの能力は小さなもので十分です。あすなろ建築工房では、新住協のQ-PEXという温熱診断ソフトを用いて、必要な性能を持つエアコンを選定しています。実際にモデルハウスに設置したエアコンは2.8KWと8畳用のものですが、一台でも家全体を暖めるに十分な能力です。設置費用は通常の壁に設置する場合に比べて、少し工夫が必要となるのですが、それも数万円のコストアップです。エアコン自体は市販の壁掛けエアコンなので、工事費込みで10万円円前後で設置可能なものとなります。

 

●床下エアコンのランニングコスト

IMG_5851

床下エアコンを設置する場合、高気密高断熱住宅とすることになるので、基本的に室内の熱は逃げにくいものになります。横浜のような温暖地においては、昼間太陽の日射を得ることが出来る環境であれば、床下エアコンの運転はそれほど必要にならないものです。1月から2月の冷え込む時期は、朝方と夜にスイッチを入れるだけで十分な暖かさをキープすることが出来ます。実際に六ッ川の家では、外気温が5度以下となるような極寒期において、朝の5時過ぎからの2時間と夜の4時間の合計6時間程度で十分な暖かさを確保しています。実際のデータを見てみると、2.8kWのエアコンの消費電力は平均して400W位です。電気料金が1KWあたり27円(1w=0.027)とすると、400W×6時間×0.027円=75円となり、1日のエアコン代は100円以下です。月にすると仮に毎日使用したとして、30日で2000円ちょっと位となります。実際には暖かい日も多いので、電気代は2000円もかからない計算となります。家中均一で暖かい環境で、このランニングコストはなかなか魅力的なものと思います。

以上のように床下エアコンは住環境として快適で、ライフサイクルコスト的に考えても大変優位性の高い設備計画と言えると思います。今後の住宅設備として、ますます注目される設備となると考えています。あすなろ建築工房のモデルハウス「六ッ川の家」に設置していますので、その快適性を是非体験して頂きたいと思います。

 

【深謝】

床下エアコンを導入するにあたり、下記の皆様から学ばせて頂きました。この場をお借りしてお礼申し上げます。(順不同)

・オーガニックスタジオ新潟 相模社長
・新木造住宅技術研究協議会 鎌田先生
・樹々匠建設 大木社長
・ダイシンビルド 清水社長
・西方設計 西方先生
・松尾設計室 松尾先生



他の記事をみる