2021年4月8日 お知らせ
【大事なお知らせ】ウッドショック
この数日「ウッドショック」の話が、業界的にホットな話題となっています。
「ウッドショック」とは、建設用木材の供給量の不足による価格の急上昇と入手難のことです。
3月位から日経新聞でも「木材不足」「輸入木材価格値上げ」「集成材値上げ」などの記事が目立ち始めていました。
「アメリカで住宅用木材の価格が、半年で倍になった」って話を聞いており日本でも同じようなことが起こるとささやかれていました。
4月に入って早々に、いつも取引している材木屋さんから「緊急のお知らせ」というメール連絡が入りました。
その内容は「現在、木材が殆ど入って来ないという木材業界の緊急事態が起こっております。既に集成材メーカーの供給割り当て・プレカットメーカーの稼働減産・停止の情報等も入って参りました。先の見通しが、全く不透明の中でのご案内は心苦しいのですが、各商社筋・問屋筋に於いても過去経験したことがない状況化に業界が置かれています。弊社としましても、全力で材料の確保を行っておりますが、日々材種は変わって参ります。秋口には、プレカットメーカー価格に大幅な上昇が見込まれます。現時点での実行予算に加味頂いた方がよろしいかと思います。ただ、物が有るのかは、分からない状況です。」というもので、危機的な状況となりつつある、いやもうすでになっているというものでした。
その数日後、構造材のプレカットをお願いしている別の材木屋さんから「納品日延期」「受注受付停止」の連絡が入ってきました。
プレカット工場に材料が入ってこなくなってしまったとのことでした。
予定されていた製材納品が半分の量になってしまったり、まったく入ってこなくなってしまったそうです。
現在は構造材だけが騒がれていますが、羽柄材と呼ばれる下地材や仕上げ材も急激に価格が上がってきており、今後はこちらも入手困難になる可能性が出てきています。
これから着工の物件だけでなく、工事中の物件にも影響が出てくる可能性となってきました。
「価格が高くなる」のであれば、お金を出して解決することも可能なのですが、「モノがない」状況なのでどうすることも出来ません。
現在、設計中、建築中、さらにはこれから家づくりをお考えの方にとっては、完成引き渡しの時期が遅れてくる可能性が高いです。
もう少し状況が整理できましたら、あすなろ建築工房で工事中、設計中、着手待ちのお客様には、詳細をご連絡するように致します。
「なぜウッドショックが起こったのか」をご説明するとともに、今後に考えられる影響についてもお話しておきたいと思います。
「なぜウッドショックが起こったのか」ですが、まず「アメリカの木材需要が高まっている」ことが一番大きな理由です。
アメリカ国内では、コロナ禍の経済対策として大幅な金融緩和策を講じ、住宅を買いやすくなっています。
そして、コロナ感染防止のため、アメリカでも在宅勤務が大幅に増えていて、都心のアパートメント(集合住宅)から、郊外の一戸建てへと移住する人が続出しています。
この二つの理由から、大きな大きな市場であるアメリカ国内での住宅市場が絶好調なんだそうです。
数年前まではアメリカやカナダは住宅は超不景気状態だったので、SPFとよばれる構造材の減産を進めてきていました。
SPFとは、スプルース(Spruce/トウヒ)、パイン(Pine/松)、ファー(Fir/もみの木)の略称で、アメリカで主流のツーバイフォー住宅の原料になるものです。
また日本の在来工法に合わせた材料として「ドライビーム」という材料があります。
アメリカの会社と提携した中国木材という会社が輸入、製材、販売している梁材で、日本の在来工法の梁材として一番流通している材料です。
アメリカで大量に生産されている「米松(べいまつ)ダグラスファー」を原木で輸入し、製材し乾燥したものです。
「米松」は材質が固く、曲げ強度に優れているので、梁材としてとても適した材木です。
アメリカの国内需要増のため、輸出する余裕が無くなり、またその価格も高騰し、前述の通りSPF材は従来価格の2倍にまで跳ね上がってしまっていて「日本国内で流通させるには高すぎて買えない」価格にまで吊り上がってしまっています。
そしてもう一つ理由があります。
それは世界的なコンテナ不足です。
その理由はこちらを参考にされると分かりやすいです。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210215/k10012867481000.html
新型コロナウイルスの感染拡大で、コンテナを使った輸送量が大幅に減っていたところ、昨年夏からクリスマス商戦にかけていわゆる「巣ごもり需要」で輸送量が急増したとのこと。
旅行にもジムにも行けなくなった人たちが、家電や日用品をネットショッピングで買うことになり、アジア方面からの輸入が急増したとのことです。
アメリカにコンテナが集まり過ぎてしまったところに、検疫やコロナチェックに時間がかかる上、国内デリバリー処理能力が追い付かなくなり、コンテナが港に滞留することになって閉塞状態に陥ってしまっているようです。
また、世界でいち早くコロナを克服した中国での好景気需要のために、中国にもコンテナが集まり始め、アメリカと中国間の移動だけで、精一杯の状態になり、海上コンテナそのものが足りなくなったようです。
「運びたくてもコンテナが無い」って理由から、原木がアメリカから入ってきていない状況が続いています。
コンテナが無いので、アメリカだけでなく欧州やロシアからの材料も入ってこなくなっています。
本来であれば、日本の商社が「多少高くても買ってくる」ものだったのですが、あまりに高くなりすぎて、「買っても国内では売れない」と判断してしまったようです。
日本の経済が世界的な競争から取り残されてしまっているようです。
建設資材の高騰については、じわじわと価格には反映されて来ていたのですが、4月に入ってなにか大きな力が加わったのか分かりませんが、急激にモノが無くなりました。
もしかしたら、どこかの商社が価格高騰を狙って買い占めていたり、自社またはグループ会社の材料を確保するため、流通させていないなどの可能性もあります。
いずれにせよ、我々のような中小企業工務店にとっては、大打撃になります。
「日本の山にはいっぱい木が生えているじゃない。アメリカから入ってこないなら日本の木を使えばよいじゃないか」ってことになるのですが、それもそう簡単にはいかないのです。
数年前までアメリカは不景気で国内で売れないものだから「日本で買ってくれ!」ってことになって、日本は半ば強制的に木材を買わされていました。
日本政府もアメリカ政府に言いなりのままに、関税を引き下げ、そして補助金をつけて、とっても安価で国内に流通するようになりました。
前述のドライビームが梁材として主流となった主たる理由です。
日本国内も景気は良くなかったところに、安価な外材が入ってきたものですから、国内の林業は大打撃を受けることになりました。
「国産材は外国産材に比べて高い」ってことになってしまったので、売れなくなってしまい、急激に国産材市場は衰退してしまいました。
そんな状況が続いていたので、山林所有者や国内の原木市場はじり貧の状態となっていて、国からの補助金で何とか生きながらえてきた状態です。
という国内状況ですので、「外国産材が入ってこないので、国内の供給を増やそう」っとしたところで、供給するための担い手がおらず、急に増やすことは出来ません。
今回のウッドショックの情報は、まだ一部の業界紙でもネットニュースに上がってくる程度の情報しか流れていないようです。
ネットで調べてみても、現時点では下記のニュースくらいしか出てきていないです。
https://www.s-housing.jp/archives/232777
この記事内にて秋野弁護士が推奨されているように、工事の変更、工期の変更、請負金額の変更をお客様にお願いしなければならない状況にすぐになってしまうと思います。
この1週間での話なので、あまりに急な動きで、業界内もかなり混乱している状況です。
以前にも東日本大震災や中国の洪水の時などに、建設資材不足により、「住宅を建てられない」ということは起こっていましたが、今回はちょっと状況が違っていて、材料供給の根本的な部分での問題なので、今後、業界内外にかなりの影響が広がるものと思います。
「着工できない」ということは、住宅会社の資金繰りの問題だけでなく、協力業者や大工や職人の収入が無くなることに直結します。
コロナで飲食業界が大打撃を受けていますが、同じことが我々の業界にも起こる可能性を秘めています。
このウッドショックは、業界を一変させることになると思います。
住宅業界ではしばらく「受注しても着工できない」という状況が起こってしまうと考えられます。
着工できない物件が続出しますので、資金繰りが自転車操業(着手金を支払いに当てている)となってしまっている住宅会社にとっては現金のショートが起こります。
銀行がすぐに事業資金を融資してくれる会社ならよいですが、融資審査などで時間がかかる会社の場合は、間に合わない可能性があります。
政府や自治体の緊急融資策が取られたとしても現金が振り込まれるまでにはそれなりの時間がかかるでしょうから、結果的に支払いが間に合わず、アウトになってしまう会社が多く発生すると予測します。
業界の淘汰が急速に進むことになりそうです。
今回のウッドショックを通じて、日本の国力の低下を感じざるを得ません。
あらゆるものを国外からの共有に頼ってしまっていて、どんな策をしたとしてもそもそもの材料が手に入らなければどうにもならないです。
グリーン住宅ポイントや住宅ローン減税、グリーン化事業など、国や地方自治体が進める住宅取得支援策はいろいろありますが、せっかく「住宅を建てよう」と思っていただけたとしても、材料がないのではどうにもなりません。
工事が出来ない状況となるので、住宅会社だけでなく、大工や協力業者の仕事も止まることになります。
しばらく材料の供給が途絶えてしまうことを覚悟しておかなければならないと思います。
そして、我々、地域工務店は、国産材の供給元である山林所有者、製材所、プレカット工場などのサプライチェーンとの連携をさらに深めていく必要があると思います。
「安いから」という理由で材料や産地を選ぶのではなく、「持続可能であるから」という理由で選んでいく必要があると思います。
競争力が著しく低下してしまったこの日本で家づくりをしていくことの難しさを改めて感じています。
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