床下エアコン全館空調システム
住宅設備としては扱いやすく適したものではありますが、「上からの送風となるので床を暖めにくい」「風が不快に感じる」などのデメリットがあります。これを解決したのが『床下エアコン』を用いた全館空調暖房システムです。横浜という温暖地においては、「床下エアコン」による全館空調暖房システムは、住宅暖房設備として大変優位性が高いものと考えています。
●床下エアコン全館空調システムの基本
床下エアコンは上記のような概念で構成されています。市販の壁掛けエアコンを床下に設置し、床下全体を暖め、床下空間に正圧を掛けることで、掃き出し窓足元に設置した吹き出し口から暖められた空気を各部屋に送り込むものです。
このためには、通常の家の作り方とは違い、下記の性能が必要と考えます。
・家全体の高断熱化(UA値で0.5以下)
・家全体の高気密化(C値で0.6以下)
・効率的なプランニング
・空気の流れを阻害しない基礎レイアウト
・空気の循環経路として、吹き抜けなどの縦に繋がる断面計画
・アローファンによる床下と小屋裏の空気循環システム
・全熱交換器による換気システム(温暖地の場合は無くても大丈夫)
床下の空間は地面に設置していることもあり、一日の間でも外気温に左右されず温度が安定した環境です。この安定した空間を暖めてチャンバーのように利用して、家全体に暖かい空気を配るのが床下エアコンの全館空調暖房システムです。
●床下エアコンによる全館空調のメリット・デメリット
エアコンのデメリットである「床を暖めることが難しい」「風を感じる」を、エアコンを床下に設置することで解決することができます。
床下エアコンによる全館空調には下記のようなメリットがあります。
・市販のエアコンでよいのでイニシャルコストが安い
・エアコンと言う効率のよい設備を用いているので、ランニングコストが安い
・床仕上げを選ばないので、どんな無垢フローリングでも使用可能
・設置位置が床下となるので、室内で邪魔にならずスペースをとらない
・エアコンなので火災の心配が無く、室内空気も汚染しない
・タイマー制御が可能
・部屋全体を均一に暖めることが出来る
デメリットとしては、
・エアコンの台数を多くは出来ないので、家を高気密高断熱化する必要がある
・設置位置が床下となるのでフィルター清掃作業がしにくい
・床下の吹きだし口を設置する必要がある
・基礎断熱とする必要があり、建設時にコストアップとなる
・基礎内を時々掃除しなければならない
・床暖房のような床面が触って感じるような暖かさにはならない
・基本的に1階リビングの時に有効な手段で、2階リビングの際は階間に設置するなどの工夫が必要
などがあります。
家を高気密高断熱化する必要があり、これにはそれなりのコストも必要ですが、ランニングコストを大きく削減することが可能となるので、これは数年後にコスト回収が可能となります。また高気密高断熱化による快適さは比較にならないほど良いものです。
フィルター清掃が低い位置となるので、壁付けの場合に比べると少し作業がしにくいものとなりますが、設置の工夫によって解決できます。
写真のようにエアコンの前パネルは簡単に外すことが出来ますので、フィルター清掃も問題はありません。
1階の掃き出しの窓下に床下からの吹き出し口が必要となります。吹き出し口には、足やモノが落ちないようにルーバーや格子などが必要です。風量を確保しつつ、モノを落とさない形状となります。最近は既製品でいろいろとルーバーで販売されていますので、デザインと用途に合わせて選択することになります。この吹き出し口から床下にはやはり小さなゴミなどは落下します。定期的に掃除機などで掃除は必要になります。
1階の床の断熱を通常の床断熱ではなく、基礎全体を断熱する「基礎断熱」とする必要があり、これは少々コストアップとなります。前述のランニングコストを大幅に削減できるので、数年後のコスト回収が可能となります。
●床下エアコンの制御
床下エアコンとした場合、エアコンの温度センサーの誤作動防止、温風のショートサーキット防止、床下空間の正圧の確保のため、室内床とエアコンとの間には写真のような塞ぎ板を設置することになります。
すると「リモコンの赤外線が届かない」という問題が生じます。この解決方法についてはブログの記事をご参照下さい。
床下エアコンのリモコン操作
https://www.asunaro-studio.com/blog/sekio/2016/12/5651/
床下の温度環境は、基礎断熱がしっかりしてあれば、外気温が5度以下となるような時でも19度くらいで安定した温度を保っています。床下エアコンは高温設定にする必要はなく、25度程度の温度設定で十分に床下を暖めることができます。
●床下エアコンの設置位置
この設置位置は床下にまっすぐ温風を噴出すことが出来るので、基礎下の家の隅々まで温風を届かせることが出来るメリットがある一方で、リモコン受信部が床下に潜ってしまっているのでエアコン付属のリモコンが使えないというデメリットがあります。そのために、やむなくもっと高い位置にエアコンを設置している方も多くいらっしゃいます。
あすなろ建築工房で施工する「床下エアコン」仕様の住宅の場合、床下エアコンの設置位置は、写真のように効率を考えて頭だけ床上に見える状態に設置しています。高気密高断熱でパッシブな家づくり住宅設計の第一人者である西方設計の西方先生の考えに倣っています。
●床下エアコンでの温熱環境
床下エアコンの温度設定は25度を標準としています。横浜のような温暖地であれば、外気温が氷点下に下がるようなことは稀で、特に寒い日でなければ、床下エアコンを稼動させる時間は、夜の7時から寝る前の11時位の4時間と朝起きる前の6時前から7時過ぎの2時間程度で十分です。
朝の5時過ぎに運転を開始し、40分くらいで25度に到達します。朝起きてくる7時過ぎには、1階のリビングの室温は21度になっています。
エアコン設置付近の床の温度は21度前後です。
窓付近では20度前後です。
吹き出し口の温度は当然ながら25度前後となります。
キッチンの床は20度前後です。
北側のトイレの床も20度をキープしています。
エアコンから遠い玄関土間でも19度前後です。
エアコンから一番遠い浴室では18度前後となります。
以上のように1階の床の温度差は3度以内に収まっていて温度差の無い環境となっています。
●床下吹き出し口の風量
前述のように床下エアコンと周辺部を塞ぎ板で塞ぐことで、エアコンとアローファンの送風ファンで送られた風圧で床下空間自体が正圧となります。床下が正圧となることで、風船に孔を空けたように、床に設けられた各室の吹き出し口からほのかに温風が吹き出すことになります。これは新木造住宅技術研究協議会(新住協)の鎌田先生の講義の通りです。
完成時には各吹き出し口の風量を測定します。
1m/S前後の風量が出ていれば、問題ないと思います。
●床下エアコンによる全館空調の設置費用
床下エアコンにて全館空調とする場合、その能力や機能については、慎重に選定する必要があります。家の断熱性能が高ければ、エアコンの能力は小さなもので十分です。あすなろ建築工房では、新住協のQ-PEXという温熱診断ソフトを用いて、必要な性能を持つエアコンを選定しています。実際にモデルハウスに設置したエアコンは2.8KWということで、木造住宅では8畳用とされているものですが、一台でも家全体を暖めるに十分な能力です。設置費用は通常の壁に設置する場合に比べて、少し工夫が必要となるのですが、それも数万円のコストアップです。エアコン自体は市販の壁掛けエアコンなので、工事費込みで10万円前後で設置可能なものとなります。
●床下エアコン全館空調のランニングコスト
床下エアコンを用いて全館空調とする場合、高気密高断熱住宅とすることになるので、基本的に室内の熱は逃げにくいものになります。横浜のような温暖地においては、昼間太陽の日射を得ることが出来る環境であれば、床下エアコンの運転はそれほど必要にならないものです。1月から2月の冷え込む時期は、朝方と夜にスイッチを入れるだけで十分な暖かさをキープすることが出来ます。実際に六ッ川の家では、外気温が5度以下となるような極寒期において、朝の5時過ぎからの2時間と夜の4時間の合計6時間程度で十分な暖かさを確保しています。実際のデータを見てみると、2.8kWのエアコンの消費電力は平均して400W位です。電気料金が1KWあたり27円(1w=0.027)とすると、400W×6時間×0.027円=75円となり、1日のエアコン代は100円以下です。月にすると仮に毎日使用したとして、30日で2000円ちょっと位となります。実際には暖かい日も多いので、電気代は2000円もかからない計算となります。家中均一で暖かい環境で、このランニングコストはなかなか魅力的なものと思います。
●メンテナンス
床下は心配するような埃が舞い散るようなことはありません。とは言っても定期的なメンテナンスはやはり必要となります。必ず点検口を設け、床全体に人が行くことが出来るようにしておく必要はあります。
断熱材をスラブ上全体に敷き込むことは、地盤への熱損失低減効果は高いと思いますが、メンテナンス上は問題があります。あすなろ建築工房では写真のように基礎立ち上がり周辺だけのスカート断熱としています。
床下ではこのようなスケートボードのようなもの(自作)で這い蹲って移動するのが便利です。
吹き出し口付近にはやはり床面から落下した小さなゴミがあるので、掃除機で吸います。埃はそれほど気になるものでは無い感じです。
ルンバを放ってみましたが、配管に乗り上げてしまって立ち往生してしまいます。なんどトライしてもどこかで立ち往生してます。配管をすべて吊り下げ式とすればお掃除ロボットでの清掃も可能かもしれませんが、どうしても床面に設置せざるを得ない配管もあるので、なかなか難しそうです。またコンクリートスラブの粉でお掃除ロボットのダストボックスは真っ白になってしまって、そこのお掃除が大変になります。
●床下エアコンでの全館空調冷房
床下エアコンは暖房専用と考えています。過去に先輩たちが床下エアコンを用いて夏期の冷房にも活用しようと試行錯誤されてきました。いろいろお話をお伺いした結果、「冷たい空気を上に持ち上げることはとっても難しい」ということのようです。前述のとおり床下土間は年間を通して一日を通して温度変化が少なく比較的安定した環境です。そこにエアコンで冷やされた冷風を入れると夏型結露を生じたり、カビを生じさせたりといろいろと難しい問題が起きてしまいます。
ということで、床下エアコンで冷房することはせずに、物理現象に則って、家の一番高いところ(ロフトや小屋裏空間など)に夏用に冷房用エアコンを設置しこのエアコンで全館をを冷房するほうが理にかなっています。写真は階段上部に設置した例です。夏用エアコン前は室内干しをするには最適な場所でもあります。
●まとめ
以上のように床下エアコンは住環境として快適で、ライフサイクルコスト的に考えても大変優位性の高い設備計画と言えると思います。今後の住宅設備として、ますます注目される設備となると考えています。あすなろ建築工房のモデルハウス「六ッ川の家」に設置していますので、その快適性を是非体験して頂きたいと思います。
●追記(注意事項)
最近、床下エアコンのよる全館空調の方式を安易に採用して「全然暖かくならない」と、あすなろ建築工房に問合せが来ることがあります。声を大きくしてお伝えしたいことは「床下エアコンは手段であって目的ではない。しっかりとした高気密高断熱の設計内容と、その性能を発揮できるだけの施工品質があって初めて、極めて少ない熱損失となり、その結果エアコン一つで家を暖めることが出来るということ。エアコン一つで家を暖めるという目的においては、床下エアコンはとても効果的な方法である。」と言うことです。問合せを頂いてお話をお伺いしてみると、大前提である「高気密高断熱の設計内容」も「断熱気密を行う施工品質」も伴っていない場合がほとんどです。そして、何も勉強せずに安易に取り入れている方も多いようです。床下エアコンや高気密高断熱に関する書籍はたくさん出版されています。まずはこれらの書籍を読んだり、諸先生の講演を聞いたり、先人たちの実作を見学したりと、しっかりと勉強してから実践されるべきと思います。
また、メーカーも壁掛けエアコンを床下空間に設置することは認めていないようです。不具合時などはメーカーの補償を受けることが出来ない可能性があります。このことを住まい手の方にしっかりと理解をしてもらってから採用する必要があります。
繰り返しとなりますが、まずは敷地の条件(日射条件)をしっかり見極め、そこに住まう家族の要望と敷地条件を照らし合わせ、必要な建物の性能を判断することになります。その結果導き出された建物性能に必要な設備計画の手法の一つとして「床下エアコンによる全館暖房」が候補にあがることになります。先に「床下エアコン」ありきで、計画を始めてはいけません。
なお、ここでの記載内容については、あくまで私の実線での備忘録的な内容でありますので、その設置においての性能や不具合についての責任は負いかねますのでご了承下さい。
【深謝】
床下エアコンを導入するにあたり、下記の皆様から多くを学ばせて頂きました。
この場をお借りしてお礼申し上げます。(順不同)
・オーガニックスタジオ新潟 相模社長
・新木造住宅技術研究協議会 鎌田先生
・樹々匠建設 大木社長
・ダイシンビルド 清水社長
・西方設計 西方先生
・松尾設計室 松尾先生
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