家づくりに失敗してしまう人
最近は、youtubeにて、建築系YouTuberの方々が情報をいろいろと発信していることもあって、家づくりをご検討のお客様の多くが、ある程度の知識を持った状態でお越し頂けるようになり、性能に関しての詳しいご説明を省くことが出来、初期段階のお打合せもとてもスムーズに進めることが出来るようになりました。
一方で「エリア外だけど、お願いできないか」というお問い合わせも多くなっています。お話しをお伺いしてみると「たくさんの会社を訪問して話を聞いたけど、条件を満たす住宅会社がエリア内に無く、決められない」という状況に陥ってしまっているとのこと。そこで、困ってしまって弊社に連絡を入れられているようです。
そんな方は「SNSやyoutubeで知識を得て、ネットで住宅会社をピックアップし、資料を取り寄せ、その中でよさそうな住宅会社の新築見学会に参加してみる。そしてネットで得ていた性能や材料を伝えてみると、期待していた回答と違う回答をされてしまう。それぞれの会社が違う回答をするものだから『もう何を信じたら良いのかわからない』となってしまって『どこの住宅会社に頼んだら良いのか分からなくなってしまった』『理想の住宅会社が無い』」となっているように思います。
多くの家づくりに関する情報をこれまで以上に得られるようになったのですが、その一方で、「youtubeで見た〇〇さんが勧めている材料にしたかったのだけど、いざ住宅会社に話をしたら、違う材料を勧められた」「〇〇の性能を満たしたいのだけど、実際に見に行ってみるとモデルハウスは〇〇以下で、実績が心配」「高性能住宅をウリにしているから話を聞いてみたのに第三種換気が標準だと言われた」など、理想と現実のギャップに苦しまれています。
このような方々はおそらくですが「情報過多」になってしまっていると思います。溢れた情報に翻弄させられてしまって、「何を信じたらよいか分からない」状態になってしまって、結果的に「家づくりに失敗してしまう人」になってしまいます。
家づくりに必要な知識や情報は山ほどあります。建築学科の大学を卒業し、そこから実務を30年経験した私でも、毎日業界紙を読みあさり、いろいろな研修会に参加し、日々情報を集め、蓄積しています。それでも、世の中の流れのスピードに追いつくことが出来ず、汗をかきながら日々情報を集め続けています。
家づくりに関わる情報って本当多いのです。建築技術やデザインの話だけでなく、金融、子育て、医療、物理、生物、社会、法律などなど多岐にわたります。
専門家でも情報を整理するのに一苦労しているのですから、一般の方でこの溢れた情報を整理することは一筋縄には行かないと思います。
世の中に氾濫している情報の多くは「一般解」としての情報です。また、その情報発信者の価値観による「特殊解」の場合もあります。
残念ながら「一般解」が適用できる方はほんの一部の方だけです。また「特殊解」が適用できる場合は、かなりマニアックな場合です。
ちまたに溢れる情報が「一般解」なのか「特殊解」なのか、その判断を建て主である皆さんが判断するのってとっても難しいことです。家を建てる場所は同じ条件ではありません。地方性もあれば、日当たりも風向きも変わってきます。南付きの道路なのか、北付きの道路なのかによっても家の作り方は違います。そこに住まう家族の家族構成や志向も大きく変わってきます。
私たち設計者が行っていることは、この家づくりに関わる様々な条件を整理し、御家族の要望に合わせた「最適解」を求める作業です。求めるものは「最適解」ですから、一つ一つの部分を見てみると、その解決策はそれぞれでは「100点」ではない75点や80点などの「及第点」としている部分や、条件を天秤に掛けて判断し50点以下としている部分だってあります。一番の条件である「予算」に収まるように検討し、そんないろいろな条件と要望とのバランスを取って設計していきます。
ですから、ちまたに溢れた情報にある「一般解」や「特殊解」が正解では無いのです。あの家では「正解」でも、あなたの家では「不正解」ということも多くあります。それぞれの家族に合わせた「最適解」を求めることが家づくりなので、部分部分で「正解」を求めてしまってはよい家にはなりません。条件が一軒一軒違うものですから、ちまたにある「一般解」で家づくりを行ってしまうと、とてつもない遠回りをするか、最悪の場合「正解」にはたどり着かない可能性があります。
お問い合わせを頂く方に「失敗したく無いので」ということで、一所懸命にご自分で情報を集め、その情報を「建築条件」として伝えてくる方がいらっしゃいますが、そんな方は残念ながら「失敗」されてしまうと感じています。
なぜそれが「失敗」なのか。理由は一番大事なパートナーである設計者を「信用していない」からです。
どうしても目先のことやこまかなミクロなことばかりが気になってしまって、マクロの視点で捉えることが出来なくなってしまっています。大事なことは、家族の健康や家の居心地、将来のメンテナンスや環境のことなどであったはずなのですが、情報に踊らされてしまって大事なことに気が回らなくなってしまっています。
世の中には耳障りのよいことばかり言っている住宅会社や自称専門家がとっても多いのも事実です。ユリウス・カエサル(英語名:ジュリアス・シーザー)の有名な言葉「人間ならば誰にでも、現実のすべてが見えるわけではない。多くの人は、見たいと欲する現実しか見ていない」をご存じの方も多いと思います。人は自分がいま興味があるもの、意識しているもの、見たいものしか見えないように(実際にあっても見えていない、記憶されない)なっているんですね。人は自分の見たいものを見たいようにしか見ることが出来ないので、自分の都合の悪いものや情報を避けてしまいます。自分に必要な情報だけを集めて、都合の悪い情報は入れない(伝えない)ということになります。
自分にとって都合の悪いことを言う人の意見は「間違っている」として、耳を傾けなくなってしまっています。それだと、都合のよい話だけをつなげて家づくりをしようとしてしまって、トータルのバランスを欠いてしまった家づくりとなってしまいます。最悪のパターンは「耳障りのよいことばかり言う」営業マンの言うことを信じて、先に契約だけしてしまうってことにもなりかねません。
先にもお話ししましたが、何十年も経験を重ねた設計者でさえも、その答えを出すのに苦労するものです。正しい家づくりを行っていく上で必要なことは、その土地の条件を読み込み、そこに住まう家族の生活スタイルに合った「最適解」を求めていくことです。
耐震性能は許容応力度計算の等級3、断熱性能はG2基準以上、C値は0.1以下、トリプルガラスで、全館空調で、ガルバリウム屋根で、断熱材はセルローズで、床はチークの無垢材で、構造材は国産材で、壁の仕上げは珪藻土で、外壁はそとん壁で、太陽光パネル載せて、全熱交換器入れて、平屋で、スマートハウスで、HEMSで、ハイブリッド給湯器で、収納たくさんで、リビング広くて、天井高さ高くて、吹き抜けがあって、バリアフリーで、駐車場や屋根付きで、外物置があって、ウッドデッキがあって、雨水貯留タンク付けて、防犯性能高くて、、、、と、要望を上げていくことはよいのですが、その分建設費用も上がっていきます。
すべて最高級の家づくりが皆が出来たらよいのですが、現実はそんなことはありません。資金的な観点から最高級の家づくりが出来る方も限られていますので、すべての住宅会社が最高級の家づくりをしている訳ではありません。設計事務所や地域工務店は、地域性を踏まえた上で、予算に合わせた性能と仕様にて家づくりを行っています。
予算を無限に上げていけるのであればよいのですが、現実的には予算という条件が伴いますから、やはり予算に合わせての取捨選択も必要となります。家づくりを行っていく過程には、予算という条件を鑑みながら「譲れないところ」と「妥協するところ」の取捨選択が必要になってくるのですが、「家づくり情報過多」になってしまっている人の多くは価値基準が分からなくなってしまっているので「すべての条件が譲れない」という方がとても多くなっています。少し前であれば「予算に合わせて」と冷静な判断が出来ていたのに、情報が溢れてしまってその情報の価値観が分からなくなってしまって、「あれもこれも必要。性能も譲れないし、予算も譲れない。予算に合う家づくりをしてくれる住宅会社がない。」ということになってしまっています。
残念ながら、都合の良いことだけを満たした「理想の家づくりの住宅会社は存在しない」のです。条件に近いところはあったとしても、完璧な住宅会社はありえません。
では、情報が氾濫しているこの時代に、どうやって家づくりを進めていくべきか。
繰り返しとなりますが、家づくりは「一般解」や「特殊解」で解決できることは少なく、いろいろな諸条件の中での「最適解」を求める作業になります。「最適解」を求めるためには、地域性、土地条件、予算条件、家族要望などの諸条件を一つのテーブルの上に並べ、あらゆる組み合わせを検討しながら、ひとつひとつ検証しながら進めていくことになります。
自分に都合の悪いこともしっかりと言ってくれる専門家が必要なのです。これが出来る人は、地元で経験を積んだ設計者だけだと思います。
皆さんがご自分で「最適解」を得るのは至難の業となります。ですから「答え」である「性能値」や「仕様」を条件にするのは、繰り返しとなってしますが順番が違うのです。
「失敗したく無い」のであれば、先に「答え」を突きつけるのではなく、「どんな暮らしがしたいのか」を設計者に伝えることが唯一の「正解」と言えます。
候補となる住宅会社が自分が求めるある一定の条件を満たしているのであれば、まずは「それでよし」とし、完璧を求めるのでは無く、その先はその住宅会社の設計者に「どんな暮らしがしたいのか」を伝えるまでに留めておくのがよいと思います。
その結果として、いろいろな「性能値」や「仕様」が「予算」に合わせて、「最適解」が提案されてくると思います。事前に調べていた「性能値」や「仕様」と異なる場合は、その理由を設計者に聞いてみて下さい。きっとその判断に至った判断基準を伝えてくれると思います。
先にもお話ししたように設計には「バランス」がとても重要です。諸条件を勘案してその絶妙なバランスを確保しています。
繰り返しになりますが「性能値」や「仕様」は先に求めるものではありません。結果的に「理想の暮らし」が出来ればよいのです。「どんな暮らしがしたいのか」がまず第一で、次にファイナンシャルプランの結果から導きだれた「予算」という条件を導きだし、その「予算」の条件の中で最大の効果が得られる「性能」を有した家づくりができればよいのだと思います。
自分で答えを見つけようとしても、難しいのが家づくりです。
一度、相手を決めたのであれば、最後までその相手を信じることが一番大事です。その相手を信じられなくなってしまったら、もうその時点で「よい家」にはならないと思います。完璧を求めても完璧な相手は居ません。
一度信頼すると決めたら最後まで相手を信頼してください。信頼することが「よい家」に繋がります。
「家づくり情報過多」に陥り「家づくりに失敗する人」になってしまわぬよう、情報の取り扱いと伝え方には十分にご注意下さい。
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