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1980年以降の新耐震基準の家なら安心?

以前のコラム「耐震改修工事とは?意味がない耐震補強に注意」において、「1980年に建築基準法が大きく改定され、それ以前の基準で建てられた建物は相当な補強を行わないと現行法に合わせることはできません。」とお話させて頂きました。

1980年に建築基準法が改正

1980年(昭和55年)に建築基準法が改正され、「新耐震基準」と呼ばれるようになったと聞いたことがある人も多いと思います。

1980年以前の旧耐震基準では、震度5程度の地震に対して「倒壊または崩壊がなければ良い」くらいの基準で考えられていました。

「新耐震基準」では、震度5程度の地震に対して部材の各部が損傷を受けないことが条件と定められ、耐震基準が明確になります。

2023年の現在では、「震度5が基準?それ以上は?大丈夫なのか?」と思う人も多いでしょう。それくらい旧耐震の基準は、地震に対して甘い基準だったのです。

震度5程度の地震は、年に数回起きることもあるため、旧耐震基準の家は大地震でなくても、ちょっと大きめの地震が繰り返し起こった場合、倒壊に至る可能性があります。

新耐震基準では、震度6~7程度の地震について「地震を受けても倒壊または崩壊しない」ことが基準として定められました。

建築基準法の改正の歴史を簡単にまとめます。

1920年市街地建築物法施行
1924年市街地建築物法の大改正
1950年建築基準法制定
1959年建築基準法の改正
1971年建築基準法施工令改正
1981年建築基準法施工令大改正

新耐震設計基準誕生

1987年建築基準法改正
1995年建築基準法改正
2000年建築基準法改正
2006年改正耐震改修促進法
2022年日本住宅性能表示基準の一部改正

旧耐震基準は震度5程度の地震に対しての基準だったため、耐力壁の必要量も少なく設定させていました。

新耐震基準では、耐力壁の量や倍率、必要な壁の長さ、軸組の種類などが改定され、耐震性能が大きく上がったことになります。柱や梁と筋交いを緊結するための金物も定められました。

新耐震基準の家は安全?

では改正された「新耐震基準」の家であれば安心なのでしょうか?

中古住宅を探される際に「『新耐震』以降の建物にしておくと安心」という説明を聞くことがあるかと思いますが、本当に安心だと言い切れるでしょうか?

残念ながら現実はそんなことはなく、危険な家がたくさん存在しています。

築40年に満たない築30年代の家の改修工事をする際、「あれ?筋交いが圧縮側でしか効いていない(金物で留められていない)!」となるケースも多いです。1980年は43年前になるため、ちょっと変ですよね。

1980年に法改正されていますので、1981年以降に建てられた建物は、新しい基準で建てられているはずです。

それなのに現状は違っています。本来使われるべき金物が使われていないことが多くあるのです。

筋交いが引っ張り側では機能しないようなカスガイと呼ばれる金物でしか留められていない例は本当によく見ます。不思議ですね。

情報が周知されなかった1980年代

本来であれば、1980年の新耐震基準改正以降に建てられた家のはずなのに、1981年以降でも旧基準のままの家が多数存在しています。

理由は「変更内容が周知されなかった」ことが原因です。

1980年とは、初めて携帯電話が登場した年で、家庭用のパソコンなどはなく、ファミリーコンピュータやゲームウォッチが発売された年です。

当然ながら情報は、ラジオやテレビや雑誌から得るもので、今みたいにネット環境などはありません。ワープロが普及したのも1980年代の話なのです。

現代と違って、新しい情報の情報源はまだまだ限られていたのです。姉歯事件以前ですので、建築士の免許も取得した後は更新講習などもありませんでした。

現代であれば、建築士の義務化された定期講習で法改正の内容を周知させることは可能です。しかし当時は法改正があっても、手紙での連絡くらいしか周知の方法はなかったのです。

当時はまだまだ大工さんが家を建てていた時代。工務店だとしてもJBN全国工務店協会などの横のつながりはほとんどなく、情報と言うものはまったく入ってこない時代でした。

ちなみにJBNは昨年15周年記念大会が行われたため、たった15年の歴史しかありません。それまでは、工務店同士での横の連携はほとんどなかったと言ってもよいでしょう。

また現在では当たり前になっている「完了検査」も、受けていない家の方が多かった時代です。

私が業界に入ってきた20年前くらいまでは、完了検査を受けない住宅は本当に多く存在していました。

確認申請は提出して、確認済証は得られてはいますが、工事の中間時や完了時の検査を受けていない家がほとんどでした。「確認申請出しただけ」の住宅です。

現場に入ってから第三者がチェックすることもないため、基準に合っているかどうかのチェックをする仕組み自体がありませんでした。

木造2階建てという条件下で、確認申請の審査時に構造関係規定等の審査が省略される制度「4号特例」というものがあります。この制度もチェックがされない原因になっていました。

現在も木造の2階建ての住宅は、構造関係の図面を確認申請に提出する必要はありません。

構造に関係する図面自体が検査機関に提出されないため、検査機関が図書をチェックすることはないのです。

確認申請に提出の必要性がないからといって、構造の検討が必要でなくなるわけではありません。

しかし勘違いをしているのか、理解していない設計者が、構造検討をしないままに設計をしている事例はまだまだ多くあります。

構造に関する図書がそもそもない住宅のため、現場でも判断の基準がない状態となり、現場が進んでしまいます。

この4号特例問題は以前から議論されており、2025年の4月に改正が予定されており、ここでようやく確認申請時に構造図の提出が求められるようになります。

建築基準法が改正されて1980年に「新耐震基準」となりましたが、この基準が浸透するには時間がかかりました。

「新耐震基準」が施行されて以降の1981年〜1985年では、8割の住宅が昔の金物で施工されています。

年々周知が進むにつれて、新しい金物の率は増えてはいますが、10年経った1990年以降も6割の住宅が昔の基準で作られているのです。

1980年の「新耐震基準」施行以降も20年くらいは、その基準の中身が現場の人たちに周知されていなかったのでしょう。

2000年に再度建築基準法が改正されるのですが、現場の人たちに正しく伝わるようになったのは、その2000年の法改正後になってからと言えると思います。

中古住宅には耐震基準を満たしていない建物も

このように建築基準法で定めた基準を満たしていない中古住宅がたくさん流通しています。

「中古の住宅の耐震性能は、思っている以上に性能が確保されていない」ことをご理解いただけるとと思います。

「1980年の新耐震基準施工以降の住宅だから安心」ということは、残念ながらありません。

2000年以降で、基準が浸透した5年後くらい以降の住宅であれば、本当の意味で安心できる住宅だと私は思います。

そんな背景があるため、「中古住宅」は本当に判断が難しいと思っています。

築20年よりも古い住宅は、なにかしらの耐震補強を行わないと、現行の建築基準法で定めた基準すらも確保できていないと思った方がよいでしょう。


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