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災害に強い家は高断熱高気密住宅

以前のコラムでは、「最低限確保しておきたい耐震性能」の話をさせていただきました。

https://www.asunaro-studio.com/column/2024/011912022.html

その後、能登の地震被害の状況も徐々に明らかになってきており、能登半島全域そして新潟県にも深刻な被害が生じてしまっています。

自宅や職場に被害が無くても、電気、ガス、水道、道路などのインフラが機能停止となることも十分に考えられます。

どこに住んでいても、どこで働いていても、何かしらの災害やその影響に出会うことは常に想定しておく必要があるでしょう。

今回は、災害に備える家づくりに必要な高断熱高気密住宅について、お伝えしたいと思います。

被災時に自宅で過ごすために必要な家づくり

災害時に「避難所に行かなくて済む」「自宅で過ごすことが出来る」ということは、ご家族にとっても大きな安心につながるでしょう。

そのためには、大規模災害に見舞われたとしても「家が安全」「家が避難所になる」家づくりを行っておく必要があります。

「避難所に行かなくて済む」には、まずは十分な耐震性能を有したお家にしておくことが必須条件となります。

以前のコラムをご参照頂ければ幸いです。「最低限確保しておきたい耐震性能」

断熱気密性能の重要性

耐震性能の次に必要なのは「断熱気密性能」です。

大きな災害を受けた際には、ガスや電気などのインフラが途絶えている可能性が高いので、冬期は暖房設備に頼れません。

雪の降る冬期の災害で、ガスや電気が通じていない状況においては、避難者にとって「いかにして暖を採るか」が課題になるでしょう。

無暖房での室温はどれくらい?

新住協の勉強会でよく紹介される仙台に建つQ1.0住宅レベル3に改修されたお家の実測データがあります。

(参考:新住協資料より)

東日本大震災の際に停電が続いてしまった時のもので、暖房装置が停止して電気もガスもない状態での外気温と室内の温度の変化の計測結果です。

外気温の温度を見てみましょう。

朝の最低気温が0℃以下となる日が2日連続し、その後2日間ほど暖かい日が続きます。

その後4日間はまた朝の気温が0℃以下となり、日中も5度以上に上がらない日が続いたことが分かります。

室内温度の動きを見てみると、外気温が5度以上にならない日も室内温度は15℃前後をキープし続けていていることが分かります。

室温が15℃であれば、ジャケットや薄手のコートといった厚手の上着を着ていれば過ごせる気温です。

上着を着ているだけで寒い思いをしないで済むのであれば、健康への影響も少ないでしょう。

避難所の底冷えする環境では、室内でもストーブなどの暖房器具が必要となり、本当に過酷な状況となってしまっていると思います。

出来るだけ早く生活が落ち着くことをお祈りするとともに、支援を行っていきたいと考えています。

六ッ川の家の無暖房状態の室温

仙台は5地域の気候区分ですが、過去のブログに6地域となる六ッ川の家の冬の無暖房状態でのグラフがあります。

六ッ川の家 温熱環境 途中レポート

六ッ川の家はG1基準しかない性能ですが、外気温が5℃程度であれば、無暖房でも室内の温度は19℃くらいを維持してくれます。

19℃なら薄手のカーディガンを羽織るくらいで過ごすことが出来ます。

上記は内部発生熱がある場合のグラフです。

停電時には内部発生熱が少なくなるため、もう少し室温は下がることが予想されます。

とはいえG1基準程度の断熱性能でも、温暖地では無暖房でも健康に影響を及ぼすことなく過ごせることを確認いただけるでしょう。

高断熱高気密住宅は夏にも強い

高断熱高気密住宅のありがたさは、冬だけではありません。

夏に被災した際にもそのありがたさを感じることになります。

2019年の台風15号を覚えていらっしゃいますでしょうか。

9月9日に上陸した台風は、千葉県を中心に多くの被害をもたらしました。

千葉では最大瞬間風速57.5m/sを記録し、死者、重軽傷者が発生する人的被害も発生した記録的暴風です。

9月とはいえ初旬のため、翌日以降は猛暑が続いており、私もスタッフとともに支援にお伺いしました。

お話を伺うと、1週間以上電気が通らず、エアコンどころか扇風機も回らず、暑さでご苦労されたとのことでした。

その時のブログは台風被害支援からご覧いただけます。

こんな夏場の炎天下での停電時にも強いのが、高気密高断熱の住宅です。

外気温が33度くらいに高くなるお昼過ぎですと、通常の断熱性能の住宅では通風がない状態で室内温度が45℃を超えてしまいます。

これでは、室内に居ても熱中症になってしまいます。

一方で高断熱高気密住宅は41℃程度と、室温がそれほど上がりません。

高断熱高気密住宅だと、断熱材で包まれており暑そうなイメージがありますが、それは冬の話です。

夏の住宅は屋根や壁が太陽に照り付けられて、火傷しそうなくらい熱くなります。

ですが屋根や壁の表面だけの話であり、分厚い断熱材が入っていれば室内に伝わってくることはありません。

逆に断熱材がしっかり充填されていないと、屋根や壁の熱が室内に伝わってきて、輻射熱を感じるようになり、外気温以上に室内温度も上昇し、体温も上昇してしまいます。

断熱材をしっかり充填していたとしても窓などから熱負荷は入り込んでくるので、室温は上昇します。

窓を開けた際の室温の変化については、六ッ川の家で計測した結果を見ていただきたいと思います。

外気温が30℃以上になっていますが、リビングの温度はほぼ外気温と同じ温度となっています。

窓を開けて風さえ通れば、外気温以上に室温が上がることは無いのです。

30℃程度であれば、ウチワで仰いでしっかりと水分を確保していれば熱中症は防げます。

夏にも強いのが高断熱高気密住宅だと、ご理解いただけるものと思います。

インフラが途絶えても有効

断熱性能と気密性能が確保された住宅は、冬も夏も室内の温かさや涼しさをそのままキープしてくれます。

上記のように、極寒期に停電した際でも、最低限の室温を確保できます。

日射が得られる場所であれば、十分な暖かさを確保してくれ、夜間でも19℃以下までは下がらない環境を維持できるのです。

19℃であれば、防寒着があれば十分に過ごすことができます。

真夏の灼熱の際にも、しっかりと日射遮蔽と断熱が施された家であれば、外気温以上に家の中の気温が上がる事はありません。

通風が確保されていれば、熱中症にならずに過ごすことが可能となります。

災害時にガスや電気のインフラが途絶えたとしても、最低限必要な室内環境をもたらしてくれる断熱性能、気密性能を確保しておくことが有効であることをご確認いただけるものと思います。

普段からのメンテナンスの重要性

災害に強い家にするためには、もうひとつ大事なことがあります。

それは、普段からの家の「メンテナンス」です。

屋根の棟板金や破風板金等が外れている、外壁のコーキングが切れている、雨樋が外れているといった状態だと、そこから雨水が内部に浸入して屋根や外壁の下地材を腐らせてしまいます。

下地が腐った場合には、著しく家の耐久性は落ちてしまいます。

地震の際に大事な構造体が役目を果たせなくなり、倒壊してしまう危険性も高くなるのです。

屋根の下地自体が腐っている場合、台風などの強い風が吹いてきたときに屋根自体が飛んでいってしまう可能性も生じてきます。

実際に2019年の台風の際には、そのような事例をたくさん見てきました。

耐震性能、断熱性能、2つの性能を有し、耐久性を維持できるように日頃のメンテナンスをしっかりと施しておくことで、「避難所に行かなくて済む」「自宅で過ごすことが出来る」ようになります。

耐震性能だけでなく、断熱性能と気密性能についても最低限の性能を確保し、メンテナンスにも気を配って、災害の際にも強い家を維持していきましょう。

すでにご自宅をお持ちの方はもちろん、これから家づくりを検討される方は、大事なご家族の命と健康を守るため、性能とメンテナンスの重要性を覚えておいていただきたいと思います。


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