建売住宅はおすすめしない!それでも増え続ける背景
以前のコラムで「持ち家か?賃貸か?」「中古住宅のリノベーションってどうなの?」という内容をお話をさせていたただきました。
土地価格の高騰と建設価格高騰により、一戸建てを諦めて「中古戸建てリノベーション」をご検討される方が多くなってきているのが現状です。
土地価格も建設価格も高くなってしまっているので、トータルのコストを抑えるために「建売住宅を購入するしかないか」とお考えになられることもよく理解できます。
ですが、建売住宅はおすすめしません。それは建売住宅が増え続ける背景が関係しています。
今回は、建売住宅が増え続ける背景を解説します。このからくりを知っていれば、建売住宅をおすすめしない理由がおわかりいただけることと思います。
建売住宅が増え続ける背景
数年前から駅から15分位の徒歩圏といった駅近の土地は、建売専門の業者が土地を抑えてしまい、一般に土地が流通することがまずありません。
土地がそもそも無いので、通勤距離から考えると「もう建売住宅しかない」と決断され、建売住宅をご購入される方はまだまだ多くいらっしゃいます。
経済成長が望めず、給与が増えない状況が続いたこともあって、住宅にかけるコストも減ってしまい、数十年前から日本の家づくりは建売住宅を代表するような「ローコスト住宅」が主流になってきてしまいました。
建売住宅を代表とした「ローコスト住宅」は、極力建設コストを落とすために、一番安く手に入る材料と言う視点で選ばれた材料で作られています。
ホワイトウッドやレッドウッドなどの集成材を用いた構造材を用い、屋根はコロニアル、外壁はサイディング、床は合板フローリング、壁はビニルクロス、などの「新建材」で仕上げ、キッチンも洗面台もお風呂もメーカーのユニット製品でくみ上げられます。
この手の住宅は、そもそもはアメリカで若い夫婦などが最初に買う家「スターターハウス」がモデルになっています。
その昔、高度経済成長期にこの「スターターハウス」が日本に導入されたのですが、その言葉の意味が間違って取り入れられてしまって、「ローコスト住宅」という名前が独り歩きし、「安く作る」目的と手段が歪められてしまったと思います。
近年の価格競争の結果、この「新建材」での家づくりが、建売住宅だけのものでなく、今ではハウスメーカーの仕様もほとんどこの仕様になってしまっています。
結局どの住宅メーカーも同じような材料を使うことになりますので、メーカーによる見た目の差もあまりなくなり、競争できる場所が「価格」だけになってきてしまっていて、結果的にローコスト価格競争に陥ってしまっています。
建売住宅はローコスト価格競争に
ローコスト住宅は、建売業者やハウスメーカーが市場の競争に勝つために「いかに安く作るか」を念頭に置いて作り上げた住宅と言ってもよいと思います。
一昔前は大量購入や中間流通を無くすことで、建設コストを抑えていました。
しかし、10年くらい前からメーカー同士の過当競争が始まり「安く作ることが出来ればなんだってやる」という状況になってしまっています。
「住まいやすさ」や「光熱費の削減」や「居心地の良さ」というところは、後回しにして「いかにトータルコストを安く抑えられるか」だけを追求して家が作られてしまっています。
外壁のサイディング選びも「奇異をてらう」ことを狙ったものが増えてきたように思います。
そして軒がない住宅も目にすることが多くなりました。夏の日差しを遮る軒を深く出すとコストアップになるためです。
軒無しの住宅にして「デザイナーズ住宅ですっきりとした外観」なんて謳い文句でごまかして軒無しにしています。
「良いものを安く」作ることはとてもよいことです。
しかしコスト競争が激化してしまった結果、長く使えない材料、偽物の材料、性能が劣化してしまう材料が普通に使われ、奇をてらったものにしたり、必要な部材も省略されて造られるようになってしまっていると思います。
ローコスト住宅を手掛けている住宅会社は「数」を売ることに一生懸命になります。
年間の新築着工棟数が10棟前後の規模の住宅会社では、ローコスト住宅を建てることは出来ません。
年間棟数が100棟以上あり、同じような家をたくさん作ることによって、材料を安く仕入れ、職人に安く工事を請け負わせることが可能となります。
一棟の利益は少なくても数十棟以上の工事を行って薄利多売で全体での利益を何とか確保し、会社の運営資金をギリギリで回すというのがローコスト住宅会社のビジネスモデルです。
だからローコスト住宅を手掛ける会社は完工棟数が多ければ多いほど、利益が残せるようになるので、吸収合併を重ね、大きな大きな会社になっています。
最近は大きな会社こそウッドショック以降の建材価格高騰の影響を大きく受けていると思います。
その住宅会社が実際に家を建てるわけでは無く、地域の工務店が下請けに入っています。
価格を安くするために、性能はギリギリ、安く作るためには早く作る必要があります。
いかに手間をかけないで作るかが当然になった建売住宅
「いかに手間をかけないか」が当たり前になり、「家を作る職人の意識」も変わってきてしまいました。
大工は棟数をこなすことが第一とされ、品質は二の次となります。
早くたくさんの棟数を次から次へとこなして初めて毎月の稼ぎが得られる状態です。
大工だけではなく、他の職人も同じような状況です。
建売住宅とローコスト住宅の外壁材には、先にもお話したサイディングが用いられることがほとんどです。
この外壁を請け負うのも下請けの職人です。
サイディングのパネルとパネルの間には、10~12mmの目地があり、コーキング(シーリング)という柔らかい接着素材で埋められます。
コーキング(シーリング)を施工する前には「プライマー塗り(コーキングがしっかりとパネルに接着出来るようにする下地の作業)」という大事な工程があります。
サイディング業者に聞いた話ですが、建売住宅やローコスト住宅の場合にはこの下地作業を省略することがあるとのこと。
ダメなことは分かっているが仕方ないということでした。
このように作られた建売住宅は、長く住めるはずがありません。
断熱材がいい加減にしか充填されていない住宅は、一冬でその寒さを痛感することになります。
あまりに寒いので、エアコンだけでは暖めることが出来ず、熱量の大きなガスストーブや石油ストーブを持ち込むことになります。
そうなると、壁内の内部結露が発生してしまいます。
実際に建売住宅をお住まいの方から「雨漏りを直したい」と連絡を受けてお伺いしたところ、結露だったと言うことが何度もあります。
ローコスト住宅を建てて「夏暑くて、冬寒くて、もう耐えられない。断熱改修したい。」ということで、新築してからたった3年で大規模改修をした方もいらっしゃいます。
「次世代省エネ基準」と謳っていても、実際の家の性能は、残念な結果となってしまっているのです。
建売住宅でライフサイクルコストがかさむとどうなる?
イニシャルコストを下げて計画したために、結果的にライフサイクルコストとして多大な費用を要してしまっている方がとても多くいらっしゃいます。
予期せぬ出費に対応できず、そのまま放置してしまうと、10数年後に劣化が急激に進んで、その家に住み続けられない可能性が高くなります。
結果的にその土地を売りに出さなければならないことにもなってしまうかもしれません。
ローコスト住宅で使われている材料があまりに安く、長く使うことが出来ないものが一般的になってしまっていることが問題だと思っています。
アメリカの輸入建材のメーカーさんによると、日本とは比べ物にならないくらいアメリカ人は耐久性を気にしており、高耐久でメンテナンスがしやすい材料が使われています。
日本で普及している新建材材料は、海外製と比較すると薄くて、チープなものばかりです。
性能も確実に劣ったものが国内では一般的に使われてしまっています。
アメリカなどの海外と違って簡単に住み替えが出来ない国がこの日本だと思います。
一生に一度しか持ち家を建てることは難しい住宅事情です。
だからこそ、メンテナンスや光熱費がかからず、しっかりとメンテナンスを行うことで、一生住み続けることが出来る、後世に残していくことが出来る家づくりを行って欲しいと思います。
まとめ
土地価格や建材価格が高騰しているこの時代は、日本の家づくりを見直すちょうどよい機会ではないかと感じています。
完全な国産品だけというのはなかなか大変ですが、その割合を少しでも増やし、国内での需給率を上げる努力が必要だと感じています。
「海外から材料が入ってこない」「円安で海外由来の建材が高くなってしまった」ために、家づくりができなくなったり、急に高くなったりしてしまうような家づくりでは、長くは続けることが出来ないと感じています。
消費者側の皆様においても「安ければよい」という姿勢ではなく、「国産材での循環型木材を使いたい」「将来的に手に入る材料を使いたい」と作り手側に求めて頂くことも必要と感じています。
少しずつでも日本の家づくりが正しい方向に向かっていけるように家づくりを通して働きかけをしていきたいと思います。
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