設計

住みやすい家は『気配』への配慮が大事

以前、アーキテクチャーライブ主催の「住まいの解剖図鑑教室」がありました。

あの有名な名本「住まいの解剖図鑑」の著者である増田奏先生による講義です。


増田先生のお話は、時々脱線しながらもとっても深い話が盛りだくさんでした。

今回は、増田先生の講義から考えさせられた内容を中心にお話ししようと思います。

増田奏先生とはどんな方?

ご存じの方がほとんどだと思いますが、一度増田奏先生のご紹介をさせていただきます。

「住まいの解剖図鑑」の著者であり、ドラクエに例えると増田先生が竜王で、私はスライムのような存在です。

「住まいの解剖図鑑」→amazonリンクはこちら

家づくりをされる方は、かなりの確率でお読みになっていると言われる名著です。

ベストセラーとなっているこの本を、増田先生が執筆した理由は『「やり方」を書いている本はたくさんあるけど、「考え方」を開設した本が無かったので書いた』とのこと。

「考え方」を説かれているので、業界のプロにも、家づくりをしたいと考えているお客様にも、プロアマ関係なく、広く読まれているのですね。

本は有名ですが、増田先生はあまり表には出てこないことでも有名です。

本は知っているけど、お顔は分からないという方も多いのではないでしょうか。

その限られた機会に関尾は過去に何度かご一緒させていただいています。

そのときのブログはこちら

増田先生は、建築家の中村好文さんと吉村順三事務所でご一緒されていたことでも知られています。

そのことに関尾も「ふつうじゃダメなのかい?」というブログ記事で触れています。

増田先生の間取りの妙は、どこにあるのでしょうか?

実はこの答えは「住まいの解剖図鑑」のコラムに答えが書いてあります。

増田先生が育った家は、女性建築家が実験的に設計した家だと記述されています。

その建築家とは日本で最初の女性建築家の「浜口ミホ」で、「ダイニングキッチンの生みの親」とも呼ばれています。

最近では業界では、「津田山の家」のリノベーション計画で話題になっていました。

浜口ミホが設計したお家で育ったということは、相当な豊かな感性を磨かれていたのではないかと想像できますよね。

『気配』を感じることが大事

講義の中で、増田先生は「『気配』を感じることが大事」とお話をされていました。

昔の家は、部屋と部屋を分けるものはフスマや障子で、家族の『気配』を感じながら、家族に暗黙の配慮をしながら生活していた。

この「『気配』を感じる」ことが、家づくりや生活において大事であるとのお話。

私も本当にそう思います。

最近の家は、西洋化されてしまって、個々の部屋がしっかりと囲われてしまって、家族の気配を感じにくくなってしまっています。

同じ屋根の下にいるにもかかわらず「あ、居たの?」なんて経験がある方も多いのではないでしょうか。

そんなこともあって、私が設計する場合、部屋の出入り口の扉は、出来るだけ引き戸にして、風と光と気配を感じられるように個の境界は少し曖昧に出来るようにしています。

また、二世帯住宅における設計の話において「『気配』を感じることは大事である」と話をされていました。

二世帯住宅では、必ず誰か血の繋がらない家族が居るということ。

ご主人様のご両親とお住まいになるのであれば、お嫁さん。

奥様のご両親とお住まいになるのであれば、お婿さん。

どちらかは血の繋がらない間柄で一つ屋根の下で生活しているのが現状。

その方には、言いたくても言えないことがたくさんあります。

気配を感じながら設計する

増田先生は『気配』を「設計」のプロセスにおいても大事であるとお話されていました。

どういうことかと言うと、「施主の気持ちを『気配』として感じながら設計している」ということ。

具体的な話では、二世帯住宅の設計の場合、そこに一緒に住まわれるお嫁さんやお婿さん、つまり血が繋がっていないので遠慮がちな同居人の意向を『気配』として感じ、プランに落とし込んでいく必要があるということです。

設計をしている身としては、深いお話ですね。

増田先生のお話は、聞いていて一瞬も聞き逃せない内容ばかりでした。

このコラムでは「無目的という目的」についてもお話されています。

世の中にいろいろある建築物の中で、唯一住宅だけが「何もしない」を許されている建築とのこと。

気張って「○○室」みたいに用途を限定せずに「無目的に使えばいいじゃん」とおっしゃっています。

「それって多目的室では?」と思われるかもしれませんが、そこは少し違う。「多目的室」にすると、結局は「納戸」になってしまう…。

部屋に用途を定めた設計を日本で初めて行った「浜口ミホ」が設計されたお家に住んでいた増田先生だから言えることなのではないかと思います。

「住まいの解剖図鑑」にも書かれていますが、「共有」と「専有」の関係性の整理が家づくりに置いては重要です。

この「共有」と「専有」の境界の変化や曖昧さを持たせることが日本の住まいのミソとなります。

日本の民家の典型的な間取りである「田の字配置」は、家族の変化に応じて部屋と廊下を変化させて、柔軟に間取りを生活に合わせることができていました。

書籍の中では、森鴎外や夏目漱石が暮らした「千駄木の家」の間取りを例に説明があります。

増田先生の新しい書籍「そもそもこうだよ住宅設計」に「住宅設計上のダイアグラム」として詳しく解説されています。


このダイアグラムは間取りの考え方としてはとても説明が付きやすいものです。

増田先生は、「住まいの解剖図鑑」にて住宅の動線計画を「ツリー(Tree)」と「ネット(Net)」の2つで説明できるとお話されています。

先の田の字配置の間取りを基本として、現代風に合わせて回遊動線を確保していくのですが、増田先生は「2方向アクセス」として説明されています。

無理に回遊動線と言わずに「2方向からアクセスできる」と説明する方が分かりやすいということでした。

本当にためになる講義でした!


住宅設計入門講座が開催!

アーキテクチャーライブでは、昨年に引き続き5月から「住宅設計入門講座」が開催されました。

この講座は、設計の道を志そうとしている学生や設計を始めたばかりの初心者の方向けの講座です。

校長先生は、神奈川大学教授の鈴木信弘先生です。

その「住宅設計入門講座」に今年はなんと増田奏先生が3時間目、5時間目を講義されました!

4時間目は、住宅デザイン学校の首席卒業の宇佐美愛さん。

講座では、住宅設計の超巨匠 吉村順三さんの設計されたお家を増田先生と鈴木先生で分析をする講座もあり、贅沢な内容でした。

お歴々に混じり、今年も2時間目を関尾が担当させて頂きました…今後もより良い設計の情報発信のため、研鑽を積んで参ります。


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