実は建築用語からきている身近な言葉
皆さんは、日常生活の中に実は建築用語が使われていることをご存じだったでしょうか?
普段、生活していると「あれ、これって建築用語から来ているな」と思うことがいろいろとあります。
そんな気付きをこれまでいろいろメモしており、やっと整理できたのでご紹介しますね。
今回は、建築用語から来ている身近な言葉をご紹介していきたいと思います。
1.いの一番
有名なのが【いの一番】です。
「いの一番で駆け付ける」と言いますよね。
「まっさき。一番最初。」という意味で使われます。
これは建築の建て方の時に、大事な言葉なんです。
建築の図面は、昔は大工さんが描いていました。
図面とは言わず「手板(ていた)」という薄い板に、墨で柱の位置を示した図面を描いていました。
この手板には、番付(ばんづけ)という符号が振ってあるのですが、この図面の通り芯の符号の付け方が昔の付け方になります。
縦方向は「いろはにほへと…」と番号を振っていき、横方向に「一二三四…」と番号を振っていきます。
棟梁はこの一番最初の符号である「『い』の『一』番」を起点に墨付けを行います。
そして建て方(家の構造をくみ上げる日)には、一番最初の符号である「『い』の『一』番」から柱を立てていきます。
家を建てる時には「『い』の『一』番」を最初に立てることから、「まっさき。一番最初。」の意味で使われるようになったのでしょうね。
最初「なるほど~」と思ったことを今でも覚えています。
2.几帳面(きちょうめん)
【几帳面(きちょうめん)】という言葉も建築由来です。
隅々までキチっとして、しっかりしている人を「几帳面な人だ」といいますね。
室内の間仕切りや風よけに使われていた「几帳」という間仕切り道具に由来しています。
源氏物語などのドラマで見かけますよね。
建築においては、この几帳の柱の表面を削って、角を丸くして両側に刻み目を入れたものを「几帳面」と言ったそうです。
隅々まで丁寧に細工が施されていることから、その状態を見て「几帳面」と表現されるようになりました。
3.羽目(はめ)を外す
【羽目(はめ)を外す】という言葉もよく使いますね。
「興に乗じて程を忘れること、調子に乗って非常識なことをすること。」という意味です。
一般の方には身近ではないかもしれませんが、木造住宅を造っていると、この「羽目」はよく使う言葉です。
羽目とは壁などの上に板を並べ、張ったもので、その板のことを羽目板(はめいた)と言います。
羽目板を外してしまうと、外壁が傷んで家の耐久性が著しく低下するため台無しになるというのが語源のようです。
外壁材であり、ないと見た目も悪いため「格好悪い状態」という意味でも使われるんですよ。
4.子はかすがい
【子はかすがい】で使われる「かすがい」も建築用語です。
「かすがい」は漢字で書くと「鎹」となり、大きいホッチキスのような金物です。
小屋裏の束と梁などを繋ぎ留める役目があり、両端が曲がっていて、先端が尖っています。
木材同士が離れないように繋ぎとめている様子から、夫婦の仲を取り持つ様子として使われるようになったようです。
5.本音と建て前
【本音と建て前】と言いますが、この「建て前」が建築用語です。
本当の気持ちが「本音」で、本当の気持ちを隠して表向きの意見を伝えることを「建て前」と言います。
「建て前」は表向きの考え。
「建て前」は、木造住宅の構造体を組み上げる作業のことで、「建て方」「上棟」とも言いますね。
本音と建て前は「対義語」になります。
「建て方」が終わると上棟式を行い、神様に「棟が上がったことを報告」するとともに、地域の方や大工さんや関係者に感謝の気持ちを込めて、無事に骨組みができあがったことをお祝いします。
仕事を円滑に進めるための儀式みたいなものです。
その意味から「円滑に進めるための表向き」なものとして「建て前」が使われているそうですよ。
6.卯達(うだつ)があがらない
【卯達(うだつ)があがらない】は有名かもしれませんね。
「地位・生活などがよくならない。ぱっとしない。」ことを言います。
卯達とは、お隣の家との間に建てる屋根に付いた小さな壁のこと。
昔は隣家の家からのもらい火を避けるために防火壁として、卯達が造られていました。
卯達を設置するにはお金がかかるので、「卯達が上がるくらいに出世した」という意味で、逆に出世しないことを「卯達が上がらない」というようになったようです。
一部の地域では、自分の財力をアピールする装飾的意味合いが強くなっていて、競い合うように卯達を造るようになっています。
7.しのぎを削る
【しのぎを削る】とは、「互角に争うこと」を言いますが、「しのぎ」も建築用語です。
「しのぎ」とは、屋根の頂部の主要な棟木を屋根の勾配に合わせて山形に削ることを言います。
「しのぎ状に削る」時に片方を削りすぎると、反対側も削って調整する必要があるため、これが転じて「互角に戦う」という意味になったそうですよ。
8.束の間
一般的な言葉である【束の間】ですが、「束」は建築用語です。
「短い間、少しの時間」という意味です。
「束」は梁と梁の間に入れる短い柱のこと。
1階や2階の柱ではなく、小屋組みの柱や、床下の柱のような短い柱を「束」と言います。
「柱」に比べて極端に短いので、「短い間、少しの時間」の修飾語として使われるようになったようです。
9.こけら落とし
【こけら落とし】の「こけら」も建築用語です。
劇場などが新しく完成した時、初めて公演されるときのイベントのことを言いますよね。
「こけら」とは、建設現場で出てくる薄い木屑のことです。
劇場などを新築した際、建設現場に残った「こけら」を払い落として最初の公演を始めることから、使われるようになったそうです。
10.埒(らち)が開かない
【埒(らち)が開かない】の埒も建築用語です。
「物事が解決しないこと。決着がつかないこと。」を表現しますが、この埒が建築的に「囲い」の意味になります。
鉄道の駅で改札内の範囲のことを「埒内」と呼んでいます。
元々は仕切りがなくなって、物事が解決する意味の「埒が開く」という意味で使われていたそうですが、現在は逆の否定的意味で使われる方が一般的になっているそうです。
ちなみに「不埒(ふらち)なヤツ」の不埒もこの埒から来ているんですよ。
出入りが出来ない柵を破るようなヤツ、つまりは不届きモノという意味で使われていますよね。
11.ろくでなし
【ろくでなし】の「ろく」も建築用語です。
「ろく」は漢字で書くと「陸」です。
「陸(ろく)屋根」の陸と同じ意味で、「平ら」の意味となります。
「まっすぐ」の意味から、人の性格で「物事や性格が真っすぐである」ことを表現しています。
その逆の意味で使われるため、「ろくでなし」つまりは『役に立たず』の意味で使われています。
12.たたき上げ
最後に【たたき上げ】をご紹介。
下積みから苦労して一人前になった人のことを言いますが、この「たたき」が建築用語です。
「たたき」は、漢字では「三和土」と書きます。
土間の床のことですね。
この土間床は昔は土で作られていました。
作り方は至って簡単。
土を混ぜて混ぜて練ってひたすら叩いて仕上げます。
そこから、ひたすらたたかれた人を「たたき上げ」と呼ぶようになったようです。
ちなみに「三和土」を「たたき」と読む理由ですが、これは土間の土に三種類の材料(赤土と消石灰とにがり)を混ぜて作ったからとなります。
三種類の材料を混ぜ合わせることから「三和土」と書いて、「たたき」と読みます。
以上、いろいろと建築用語が語源の言葉をご紹介しました。
知っているとより建築が身近になりますよね!
他の記事をみる