軒のない家は夏が地獄!日射遮蔽ができないとエアコンの効果がない?
日本では夏至の時期からお盆を過ぎ、9月に入り、お彼岸に近くなってもまだまだ暑いですよね。家の中が暑くて仕方ない方も多いのではないでしょうか。「日射遮蔽をするかしないか」で快適さ大きく変わってきます。
この記事では日射遮蔽ができないとどうなるか、軒のない家はどうなるか解説したいと思います。
9月でも暑い思いをしている家が多数
太陽の高度が一番高い時期である夏至は、例年6月21日前後です。横浜周辺だと、正午の時点で78度の角度で陽が差し込んできます。
建築の教科書では、「窓の高さの1/3の長さの庇を出しておくとよい」とされています。リビングなどの掃き出し窓の場合だと窓の高さが2m前後となるため、上部に60cmほどの庇を出していると、日差しを遮れます。
しかし庇では不十分です。9月の中旬過ぎの日中の太陽高度は55度と低くなってきます。低い位置からの日差しも遮らないと、9月に入ってから「暑い家」になってしまいます。
実は、8月だけではなく9月以降も暑い思いをされている方もとても多いのです。太陽は12時~15時くらいまではジリジリと強い日差しを照り付け、55度よりも低い位置から陽が差し込むことになります。
建物が東や西側に傾いて建っている場合にはさらに条件が悪くなります。建物が真南に向いて建っていても、東側と西側の外壁面にある窓からは、真横から日射が入ってきます。
夏至の時期は南面はピークとなる12時頃でも200w/㎡程度ですが、朝方の東面や午後の西面では約600w/㎡の熱量です。東側や西側は、朝や夕方に真横から日射が差し込むため、夏の西日が暑いのです。
8月、9月は窓から日射が入り、春分や秋分でも南面では500W/㎡の熱量が入ってきます。
冬を重視すると夏は暑くなる
窓ガラスを日射遮蔽係数の良いLow-Eガラスなどにしたとしても、遮れるのは60%程度です。仮に600W/㎡の熱量が入ると仮定すると、日射の6割は高性能な窓で遮蔽できても、残りの4割つまり240W/㎡は、室内に日射熱として入ってきます。
通常、南側は冬の日射取得を大事にして日射取得型のガラスを使うことが多いですが、その場合は4割減の6割の熱が室内に入ってきます。600W/㎡の6割つまり360W/㎡が室内に日射熱として入ってきます。
リビングの掃き出し窓の面積が1.6m幅×高さ2.0mとすると、その面積は3.2㎡となります。夏至の日射量は360w/㎡×3.2㎡=1152wです。
8月には少し下がりますが、庇のない窓からは一か所あたり800~1000wの熱が入ります。冬だけを意識して南側に大きな窓をたくさん設置すると、冬の季節は暖かく過ごせても夏の季節には暑さに苦しむことになります。
庇のない窓が家に4つあると、900w×4か所=3600Wの熱量が入り、外壁や屋根からも熱は入ってきます。
G2基準の家の場合、30坪の家の表面積を仮に350㎡と仮定すると、外気温が32℃で室内温度が27℃の際は温度差が5℃のため、0.46W/㎡K×5℃×350㎡=805Wの熱量が壁から入るのです。
家の中でも熱が発生する
内部での発生熱も無視できません。一人当たり100Wの発熱があるため、4人家族では400Wになります。
家電からも熱は発生し、テレビや冷蔵庫や食洗器や洗濯機やパソコンや照明器具など少なく見積もっても300Wは発生しています。実際はもっと多いでしょう。
夏は窓から3600W、壁から800W、人から400W、家電から300Wで合計5100Wの熱量が発生します。12畳用の3.6KWのエアコンの冷房能力があっても家を冷やすのは難しくなります。
当社でエアコン一台で冷房する場合、10畳用の2.8KWのエアコンを使用しています。日射遮蔽をしっかり行えば、外からの熱量、内部発生熱量を足した熱量をクリアできる能力です。
窓から日射熱が入ってこなければ、壁から800W、人から400W、家電から300Wで合計1500Wとなるため、2.2KWの6畳用エアコンでも冷やせる計算です。実際には漏気なども考慮して、少し安全を見て2.8KWなどのエアコンを設置します。
いかに窓からの熱取得を少なくするか、日射を入れないようにするかが重要か分かりますよね。
この窓からの日射の影響について、以前「新築したばかりだけど、G2基準にしたのに夏がとても暑い」と相談されました。ハウスメーカーや建売住宅では軒のない家が多数ありますが、軒がないと夏に暑くて大変な思いをします。
相談された家は、で南側に庇がなく、夏場はかなりの日射熱が入ってきていることが分かりました。「Low -Eガラスを使用しているから大丈夫」と言われたが、実際住むとエアコンを3台使っても夏が暑いため、断熱の施工ができていないのではないかと疑って、当社に相談されたのです。
日射遮蔽のまったくない大きな窓がご丁寧に南側に6か所、東西にも大きめの窓が2か所ずつ設けられていました。熱負荷を単純計算すると、合計8258Wになります。内訳は次の通りです。
- 南窓:500w/㎡×2m×1.6m×6か所×60%(Low-Eガラス取得型)=5760W
- 東窓(西側):600w/㎡×1.3m×1.6m×2か所×40%(Low-Eガラス遮蔽型)=998W
- 壁:800W
- 内部発生熱(人):400W
- 内部発生熱(家電):300W
設置されていた3.6KWのエアコンと2.2KWのエアコン2台の冷房能力の合計値が8KWなので、これでも足りない計算なり、エアコンを3台稼働させても涼しくならなかったのです。「建てられた住宅会社の設計者さんに『窓の日射遮蔽を出来ないか』とご相談ください」と返答しました。
夏の日射をしっかりと考えて設計することがとても重要です。
カーテンを閉めてもダメなの?
夏の暑さに対して「カーテンを閉めてもダメなの?」と思われる方もいるでしょうが、ダメなのです。窓ガラスに日射が入ってきてしまうお家にお住まいの方の多くが、窓の内側のカーテンやスクリーンを閉めたりして対処しています。
日射取得熱を少なくできますが、効果は限られています。窓ガラスから入ってきた熱はカーテンやスクリーンで遮れますが、熱として室内に入るため、室内の熱負荷は確実に大きくなっています。
入ってきた熱は室内にあるため、結局は熱量をエアコンで冷やす必要があるのです。繰り返しになりますが、夏はとにかく窓からの直達の日射しを入れないようにする必要があります。
まとめ
8月のお盆を過ぎてからの太陽高度が低くなった時の日射を遮ることが重要です。しかし深い庇を出してしまうと、冬期の日射がとても少なくなってしまいます。
冬の日射取得が少なくなると、それだけ電気代やガス代などの暖房エネルギーが必要になります。夏も冬も快適に過ごせる「ちょうどよい長さの庇」は、関東周辺の太陽高度の地域には存在しません。
冬の熱取得をしっかり行うため、夏の季節には太陽の日射を遮る必要があります。日射遮蔽を考える際、最も重要なのは「外で遮蔽する」ことです。
当社では冬の日射取得を優先して窓の大きさや庇の奥行きを定め、その条件でまずは設計します。夏の日射遮蔽については、日射遮蔽が可能な部材で夏の嫌な日差しを遮るように設計するという順序になります。
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