家の主治医がいないとどうなるか?
皆さんには「主治医」のお医者さんはいらっしゃいますか?
インフルエンザにかかったり、ケガをしたりした場合に近所にいつも行く診療所がある程度で「主治医と言える病院やクリニックがある」という方は少ないのではないでしょうか。
持病がある場合は、「主治医」となるお医者さんがいるでしょうが、健康な場合には、主治医がいる人は多くないでしょう。
これは家についても同じです。
世の中の新築住宅のほとんどが、新築後、主治医となるような決まった工務店や住宅会社が居ない状態で過ごされ、数年から十数年経って、実際に不具合などが起きてから、メンテナンス会社を探したりされているようです。
「家の主治医」がいないと、実は困ることが多いのですが、普段はそういったことを考えずに過ごしている方がほとんどかと思います。
今回は「家の主治医が居ないとどうなるのか」という話をしたいと思います。
家の主治医がいないとどうなる?
ハウスメーカーさんは、「長期保証」の名のもとでメンテナンスもしっかりと診られています。
ハウスメーカーでない新築住宅の場合は、ほとんどが「家のかかりつけ医」が居ない状態で、不具合が起きた時に「どこに連絡したらよいのか?」と右往左往されている方がとても多いように感じます。
無管理住宅が多い実情
設備器具が壊れたり家のどこかで不具合が出たりしない限り、「なにかあったりしたらその時に探せばいいや」と思っている方も多いのではないでしょうか。
ネット検索で弊社を見つけられて、ご連絡を頂くことも多くあります。「家のことで困ったときに相談する工務店などが無い」と言う方がとても多いのが実情なのです。
我々の間では、そのような方々を「無管理住宅」と呼んでいたりします。
「無管理住宅」が世の中には多いので、ネットでメンテナンス業者を紹介するビジネスが成り立ちます。
「リフォーム ○○町(お住まいの住所)」と検索すると、「横浜市のおすすめリフォーム20社徹底比較」という紹介サイトが出てきます。
このようなサイトに掲載されている工務店は無料で掲載しているのではなく、実はお金が動いています。
「地元のリフォーム会社を徹底比較」と、すべての会社を網羅して比較しているようにホームページには書いていますが、掲載されている会社はその地域の一部の会社だけです。
「安心の会社だけを厳選し」と書いてありますが、登録すればどんな会社でも掲載されます。
紹介サイトの運営は、基本的に施工会社からの「紹介料のバック」によって成り立っています。
サイト経由で皆さんが問い合わせすると、サイト運営会社に業者は紹介料を払い、工事が契約となると工事費の数パーセントが「成約料」としてさらに支払われるという仕組みです。
「自分たちが払わなくていいなら構わない」と思われる方もいるでしょうが、紹介料は工事費用に転嫁されて、上乗せされています。
結局は、お客さんが負担していることになるのです。紹介料や成約料は、お客さんとの工事契約金額の10%~30%が相場とのことです。
そのようなサイトには、「複数のリフォーム会社からの見積を比較して」との言葉もあります。
洗面台やエアコン交換などの単純な工事なら良いのですが、内装や外壁、水回りの変更などについては、付帯する工事も多くなります。
見積をする人によって工事内容が同じになることはないため、単純な金額比較は困難です。
工事内容が多岐に渡るほど、正確な見積を出すには調査と検討が必要となり、時間も労力もかかります。
リフォーム会社の立場で考ると、自分の会社の仕事になるかどうか分からない工事の見積に時間をかけることもできないため、ある程度手間がかからない範囲での見積になります。
正確な見積ではなく、競争相手に負けない程度の割安感のある見積金額として提示することになるでしょう。
実際に工事の依頼を受けてから「これは見積外です」という形で、工事費用を上乗せしてもらうことになります。
訴訟などのトラブルに発展しそうになると当初の金額でやることになりますが、これがまた危険なのです。
「見積金額通り」にするために、本来やらなくてはいけない作業を省略されてしまう可能性があります。業者にかかれば、手抜き工事をすることなんて簡単なことです。
お客さんは事実を知らないだけで「見積通りでよかった」と考えているかもしれません。
「追加工事を言う業者」よりも「黙って見積通りの工事をする業者」の方が評価が高くなるため、「見積通り」が最優先となってしまっている業者さんがとても多いのです。
極力現場での増額となることがないよう、事前の調査がとても重要になるのですが、事前の調査と正確な見積を行うには経験と知識が必要となります。
工事の仕事を何十年も重ねてきたベテラン監督にしか分からないような高度な判断力が必要です。
経験の浅い人が見積する場合は見落としが多く、見積は安くなります。逆に経験豊かな人が見積する場合はしっかり調査し、必要な工事について見積をするので、見積価格はおのずと高くなってしまいます。
「見積通りに工事をする」のではなく、「家にとって適切となることを相談してくれる」ことができる業者が、本当に誠意のある業者さんであると思います。
自分に都合の良い、つまり耳障りの良いことばかり言う業者ではなく、時には厳しいことを言ってくれる業者でなくてはいけないと思うのです。
紹介料を取られた上に、適切ではない工事をされてしまわないようにご注意ください。
リフォームで検索すると、「リフォーム評価ナビ」というサイトも出てきますが、一般財団法人 住まいづくりナビセンターが運営しており、紹介料が発生する紹介サイトではありません。
登録されているところも、年会費を払えば登録できるので、優良な業者かどうかまでの見極めが出来ているのかどうかは不明ですが、他の紹介サイトよりはよいかと思います。
登録には年会費がかかるので、あすなろ建築工房は登録しておりません。
リフォーム工事の手抜き事例
次にリフォーム工事での手抜き工事の事例の話をしておきます。過去にシロアリ害の調査でお伺いしたお家の話です。
「シロアリが出た」とのことで調査にお伺いすると、洗面所部分の床がフカフカになっていて、床下に潜るとシロアリ害が広がり、土台がなくなっていました。
土台には補強がされていましたが、それなりの規模の地震があったら、揺れ方によっては倒壊してしまっていたかもしれないという危険な状態でした。
数年前にユニットバスに交換したばかりだとのことで、リフォーム会社の数社から見積をとり、中間位の見積額を提示してきた業者に決めて依頼していました。
土台に沿わせる形で補強をしてあるところをみると、どうみても、ユニットバスを交換した時には、すでにシロアリ害が進行していたものと思われます。
見積金額には補強工事は入っていなかったし、その業者は補強のための費用を結果としてもらっていないのだから「手抜き工事」とは言えないかもしれません。
しかしプロの仕事ではないでしょう。
本来であれば、シロアリ害のある部分の材をすべて撤去し、機能を失ってしまった土台や筋交いを入れ直し、構造性能を確保しなければならないのですが、それは大変な工事となります。
ユニットバスを取り付けるだけの職人さんでは手に負えません。
シロアリ害があることを伝えてしまうと工事が止まるため、事実を伝えずに簡単な補修をして、ユニットバスを取り付けたのではないかと推測されます。
既存住宅のリフォーム工事というものは、「開けてみてびっくり」ということが多く、現場で工事が増えてしまうことも多いのです。
時折、他のリフォーム専門店の見積をどう思うかと聞かれることもありますが、我々プロが見ても、他社の見積の内容は分かりません。特に「○○工事一式」となっているとどうにも判断が出来ません。
正確な見積をするには、経験豊かな技術者が時間を掛けて調査する必要があります。どこまで現地を調査し、不確定要素をどこまで予測しているか、そしてその対処法はどう考えているか、全く変わります。
見積に入っていなければ、必要だと思っても、現場で追加は言いにくいものです。手抜き工事は、怠慢だけで起こるわけではないこともご理解いただければと思います。
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