建築から見る風水・家相の考え方
一軒家を建てようとするとき、両親から次のようなアドバイスをもらう方が、実は多くいらっしゃいます。
「キッチンは南側はやめなさい」
「階段が真ん中にあるのはよくない」
「2階にリビングはよくない」
「水回りは西側はダメと言われた」
「お風呂は北側にしてはいけない」
など、間取りに関するアドバイスが多いようです。
これらは風水や家相に起因するお話ですが、住宅の仕事をしていると風水や家相に関するお話が時々出てきます。
そこで今回は、建築という観点から風水・家相をどう考えるのか、お伝えしますね。
家づくりの際に親の意見は無視できないでしょうが、そのまま受け入れるのではなく、しっかり説明し、ご納得いただいた上で進めて頂きたいと思います。
風水や家相ができた背景を知ろう
まずは風水や家相ができた理由から解説します。
私の大学の大先輩でもある有名な建築家の清家清先生の著書に「現代の家相」という本があります。
1989年に書かれた本で、今から30年以上前の話のため、現在とはまた少し違った部分もありますが、基本的な考え方は清家先生と私は同じです。
清家先生は「家相」について、以下のように解説しています。
中国なら中国の、日本ならば日本の風土の中で、住み良い家をつくるにはどうすればいいか、家づくりに失敗しないためには何に気をつけたらよいのか、長年の試行錯誤ので得られた経験が、つみ上げられて出来た家づくりのノウハウ集が「家相」だと考えられるのです。
その意味で「家相」は、近代建築学が成立する以前の、設計士・建築士のための技術指導書であり、今日の建築基準法の役割もはたしていたといえましょう。
注意してほしい事柄があったとき「西側に台所を設けると西日で食べ物が腐って家族が病気になってしまうので避けましょうね」など理由を説明していると大変で、覚えられませんよね。
そのため「言い伝え」として、子孫が家づくりに失敗しないように指南書として作られたのが風水や家相です。
私たちの親の世代の人たちも、両親や親戚などから風水や家相のアドバイスを聞いているため、親心で同じことを伝えている可能性があります。
風水や家相について、さらに歴史的なところからも紐解いていきたいと思います。
風水や家相の歴史
「風水」は約5000年前の古代中国で発祥し、大地の気の流れや土地の相を判定して災いを防ぐことを目的として作られました。
その後日本に持ち込まれ、建物の間取りの吉凶を占うものとして発展したものが「家相」とされています。
江戸時代から明治期にかけて確立したと言われていますね。
江戸時代や明治時代の話ですから、下水設備も未熟で、トイレは水洗ではなくボットン便所で、水道も未整備で井戸水が普通に使われていていた時代です。
換気扇はなく、窓を開けて換気するしかありませんでした。
断熱材もないため、夏は窓を開け冬は窓を閉めて耐え、それでもなお夏は暑く、冬は寒いのが当たり前の時代です。
台所やふろ場も薪で火を起こして湯を沸かし、車もありません。
現在とはまったく状況が違う時の話なのです。
風水で凶とされる場所の理由
家のそれぞれの場所の凶とされている理由を探ってみたいと思います。
キッチン
キッチンは、南、南西、西が凶とされています。考えられる理由は次の通りです。
・南側や西側にキッチンがあると西日で暖められて食べ物が腐りやすい
・窓を開けることが多い夏場は、南南西の卓越風が吹く。そこに火の気があると、家事になった際に家全体に火が回って全焼してしまう
浴室
浴室は凶となる方位が多いのですが、北と南西がまず大凶になっています。
・浴室が北にあると ヒートショックになってしまう
・窓を開けてることの多い夏場は南南西の卓越風が吹くので、そこに火の気があると、家事になった際に家全体に火が回って全焼してしまう
高気密高断熱で家全体が暖かくなったのは、ほんの10数年前の話です。
古い造りのお家の北側は当然ながら寒かったので、浴室で倒れてしまう例は多かったでしょう。
西については、昔のお風呂は薪で湯を沸かしていたため、風上になる位置に置くことを避けた。そんな理由なのだと思われます。
トイレ
トイレは、南や南西や中央が凶とされています。
・南のトイレは夏に暖められて、肥溜めが臭くなる
・南西のトイレは卓越風に乗って、家中に臭いが入ってくる
・中央にトイレがあると、換気ができず臭い
トイレは臭いと換気が理由なんですね。
とても明快です。
玄関
玄関は、北、北東、南西が凶とされています。
・冬の卓越風は北風なので、北に玄関を設けると出入りする度に冷気が家の中に吹き込む
・夏の卓越風は南南西なので、南西に玄関を設けると、ドアを開けるたびに土埃が家の中に吹き込む
玄関はおそらく風が原因ではないかと思います。
階段
階段は、家の中心が凶とされています。
・昔は照明器具がなかったので、家の中央に階段があると暗くて足を踏み外してしまう
考えてみると自然な話ですね。
床面積
1階の面積よりも2階の面積が大きい場合は凶とされています。
・2階の面積が大きいということはバランス的にも不安定になり、地震耐力的に問題
木造住宅倒壊解析などが為されていない時代では検証の方法もないため、これも無理のない話です。
建物の【欠け】
「欠け」つまり凹部分も凶とされています。
・外壁の欠けがあると、空気がよどみやすく、湿気が対流してしまい、カビやコケが生えたりして建物の耐久性を低下させてしまう
この外壁が木材しかなかった時代ですから、これも仕方のない話とも思います。
現代との違い
風水や家相が作られた時代には、水道も電気も車も有りませんでした。
現在は、上下水道も完備され、衛生的にも心配がいらない時代です。
断熱性能も上がり、夏も涼しく、冬も暖かく過ごせます。
各家庭に電気が通り、窓を開けなくても換気は可能で、夜も照明で明るく、車社会となっています。
風水や家相が作られた時代には、敷地も広いため比較的自由に間取りを考えることも可能でした。
しかし現在は、敷地は限られ、車の駐車は道路の関係でどうしても場所が決まってしまいます。
車から降りた場所から、雨に濡れずに最短で玄関にたどり着きたいですよね。
もしも敷地の南西に駐車スペースがあった場合、家相で凶とされる南西に玄関を設けないようにすると、使い勝手の悪い不便な場所に玄関を設けることにつながります。
現在は、江戸時代や明治時代とは全く違い、近代建築学が成立しており、住まい方もまったく違う時代です。
風水や家相を取り入れてしまうと、当時と違って逆に弊害も起こりえるのです。
風水・家相は実は統計学によるもの
実は風水も家相も基本的には統計学による確率論の話なんです。
「絶対にダメ」ということではなく、「統計学的に、そうするとよくないことが起こる可能性が高くなる」というものです。
設計者はいろいろな条件のもとで、住まいやすい家になるよう最適解を求めて間取りを考えています。
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風水や家相が入ってきてしまうと、「これがベスト」と導き出した最適解とはなりません。
リスクを回避できればOK
先にお話しした通り、風水や家相は統計学的な事象からくるリスク回避のための教えです。リスクを回避さえできれば、凶ではなくなると捉えてよいものと思いますでしょう
たとえば北側の浴室がダメなのは、断熱性能が良くなかったからです。
断熱性能がよい家であれば問題なし、西のキッチンがNGなのは西日の問題のため、日射遮蔽できているキッチンだったら良いのです。
ちなみに、間取りを工夫して凶とならないように配置していくためには、広い敷地と広い床面積が必要です。
実際のところ風水や家相を考えるには、100坪以上の土地と廊下などの工夫で配置を考えられる50坪以上の平屋の計画でないと、凶を避けた設計は難しいです。
以上のように、風水や家相はご先祖様が家づくりを失敗しないためにまとめてくれた「家づくりの指南書」みたいなものですので、その理由をしっかりと理解し、現在の住まい方に置き換えて考えると良いでしょう。
風水や家相をそのまま取り入れるのではなく、根拠を理解したうえで、現代の生活に即して取り入れていけば、ご両親も納得してくださるのではないでしょうか。
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