家づくり

土足文化は日本だけ?土足とはだし文化の違い

以前、JBN全国工務店協会の会員交流会が大阪で開催された際、交流会での基調講演にて、国際日本文化研究センター所長の井上章一先生から「日本の住まい〜土足の限界〜」の講演を拝聴しました。

その際にお伺いしたお話が興味深かったため、今回は日本の土足文化について解説したいと思います。

かつては土足文化を発展させようとしていた歴史もありました。なぜ日本人が家の中で靴を脱ぐのか、詳しく分かりますよ。

日本が土足文化の理由

現在、日本の住宅は玄関で靴を脱ぐスタイルの家がほとんどです。

一方、海外の住宅の家は、外履きのまま生活する家の方が大多数です。

ちなみに少数派ではありますが、東南アジアやノルウェーなど、日本と同じように靴を脱いで生活する国も存在します。

「靴を履いたままか」「家の中で脱ぐか」の差は、気候の違いが一番であると学生の頃に教わりました。

日本は高温多湿な夏があるので、家の快適性や耐久性を確保するために床の高さを地盤面より持ち上げる必要があり、外と中に高低差が生じます。

雨が多い環境である日本では、靴を着用していると足が蒸れて不快になるため、裸足で生活する方が快適でもあります。

舗装がまだまだ行き届いていない時代も長かったため、泥の付いた草履で家の中に上がることも出来ず、家の中では下足を脱いで裸足で生活することが普通になったのです。

「靴を脱ぐのは畳が理由ではないか?」と思われる方も多いでしょうが、畳文化は意外に歴史が浅いのです。

江戸時代までは、武家以外の家は畳を敷くことは許されず、畳は一部の住居に限られていました。

畳の間が庶民に生き渡ったのは明治期以降となります。

靴を脱ぐかどうかで玄関も変わる

「靴を履いたまま」「家の中で靴を脱ぐ」の差は玄関の違いにも表れます。

ご存じの通り、日本の家には玄関があり、玄関で靴を脱いで家にあがります。

「靴を履いたまま」の家の場合は、玄関自体が不要であり、いきなりリビングなどに入ることも可能です。

アメリカ映画では、玄関を開けたらいきなり家族がパーティしているシーンなどを見かけますよね。

訪問者はホストに迎え入れられて家の中に入るのですが、ホストは左手でノブを回して手前に扉を引き、客人と握手して家に招き入れます。

靴を脱がない文化だから可能となるシーンです。

日本の場合、玄関扉は基本的に外開きのため、玄関扉は外側に開きます。客人は玄関扉が開く際には扉から一歩引いた位置で扉が開くまで待つ形となります。

外に開く扉では客人を拒むイメージが生じてしまうので、欧米では外開き扉は受け入れられないようです。

扉の開き勝手の話になったので、開く方向の違いについても触れてみたいと思います。

欧米で外開きではなく内開きの玄関扉が多い理由は、防犯上の理由です。

開き扉は構造上ヒンジという金物が開く方向にあり、ヒンジ部の芯を抜くと鍵がかかっていても扉を外すことが可能となります。

強盗など治安の悪い国や地域では、外開きの扉はヒンジを壊されて家に侵入されてしまうので、ヒンジが室内となる内開きが広まったそうです。

日本でも明治期のころの建築では内開きの家も多くあったようです。

その流れを汲んでかは分かりませんが、近代建築の巨匠と呼ばれる大先生、例えば篠原一男の設計の家も内開きの玄関の事例を多く見かけます。

西洋文化を取り入れたからではないかと思います。

しかし、実際にこの内開きの玄関というものは日本ではとっても使いにくいものです。

内側に扉が引かれるため、脱いだ靴は扉の内側に置くことはできず、かなり広い土間空間がないと使いにくい玄関になります。

狭い土地、狭い家で玄関を広くできない日本では内開きが浸透しにくいのです。ですが、かつての日本は土足文化を浸透させようとしていた時期もあったんですよ。

明治天皇は土足で生活していた!

現在の日本では「家の中で靴を脱ぐ」のが当たり前ですが、実は明治期に「靴を履いたまま」の文化を浸透させようとしていたのです。

政府が欧米化を進めるにあたって、その代表とも言える「靴を履いたまま」の文化を日本の生活にも受け入れさせようと、いろいろと画策していたとのこと。

そこで協力を仰いだのが明治天皇です。明治天皇は欧米と同じ土足生活を徹底されていたそうです。

西洋化のお手本として、靴を履いたままの生活をなされていたそうで、明治天皇の行く先々は西洋化され、靴で生活できるように徹底していました。

訪問先では畳の上には赤いじゅうたんを敷いて、土足で上がれるようにして対応されていたそうです。

岩倉具視が危篤で、明治天皇がお見舞いに行った際、余命いくばくもない岩倉具視は畳の上に寝ていたそうです。

見舞いに訪れた明治天皇は靴を脱がず、土足のまま畳の上に上がって、見舞われたとのこと。

そこまでして靴文化を貫き、国民にもその習慣を浸透させようとしていたそうです。

しかし浸透したのは、皇族と一部の役人や企業家だけで、庶民にはその文化は行き渡りませんでした。

やはり庶民には土足の生活は馴染めず、土足が前提で造られた施設においても土足で上がることに抵抗感を感じてしまったようです。

その結果、その中間としてスリッパという履物が生まれ、下足を前提に造られた施設においてはスリッパを履くようになったとのこと。

世界的に見てもこの「スリッパ」という履物は珍しいそうで、日本発祥の文化なんだそうです。

スリッパは上記のような過程があって生まれましたが、現在は冷たい床から寒さを和らげるために広く世間では使われています。

高気密高断熱の住宅にして床面が冷たくなければ冬でもスリッパは不要となりますね。

欧米でも靴を脱ぐ人が増加

最近は、欧米の家庭でも家の中では靴を脱ぐスタイルが増えていると聞いています。

都会のマンションでの生活で「家の中で靴を脱ぐ」人が多くなっているとニュースでも聞きますよね。

その理由は新型コロナです。

感染リスクを下げるために、家の中で靴を脱ぐようにしている人が増えているとの話でした。

欧米人には水虫で悩んでいる人も多いと聞きます。

今後も世界で「日本住宅化」が進む可能性もありますね。

「靴を履いたまま」か「家の中で靴を脱ぐ」かによって、生活スタイルはガラッと変わりますし、いろいろと考えて家づくりをする必要があります。

家づくりを行うには、気候や文化の違いを検討に入れることも多くあります。

民族文化に関する知識も家づくりには必要ですね。


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