気密性能はC値にこだわり過ぎない
「施工する住宅の平均C値はいくつですか?」
「C値を0.5以下に出来ますか?」
といったご質問を頂くことが時折あります。
今まで一般の方が関心を持っていなかったC値ですが、最近はyoutubeなどの普及もあり、一般の方も具体的に興味を持たれるようになったようです。
そこで今回は「快適に住まうために必要な気密性能」についての解説をしていきますね。
C値とは
C値とは「相当隙間面積」という単位です。
建物全体の外皮にある隙間の面積(cm2)の合計を延床面積(㎡)で割った数値を指し、単位は、「cm2/㎡」になります。
簡単に言うと、30坪の床面積つまりは100㎡のお家の場合、C値が1.0となると、家の隙間を集めると100cm2あるということになります。
100cm2というと10cm×10cmの穴なので、なかなか大きいですね。
ちなみにC値は少数第一位で示されます。
隙間の面積を延床面積で割った数字の小数第2位を4捨5入して、小数点以下1桁で表すのが正解です。
よって、C値0.35という表記は誤りで、それはC値0.4とするのが正となります。
第一位までしか求めないということは、つまりは「小数点第2位以下は、大した差ではない」ということを覚えておいてください。
C値は小さい方が良い!?
最近、一部の間で「C値の競争」が起こっているように感じます。
もちろんC値は、小さければ小さいほど換気計画を正しく出来るようになるので、C値は小さければ小さいほどよいのは確か。
C値が小さいこと自体は問題ないですが、小さくするために生じる弊害についても理解しておく必要があります。
C値を左右する最大の要因
正しく高気密高断熱の基本を学んだ人は、「ある一定以上のC値の数値を追い求めることは無意味である」と言う人が多いです。
「新木造住宅技術研究協議会(新住協)」での研究結果では、「C値が1.0以下にしても苦労の割には効果が少ない」「0.5以下にしても温熱環境には微々たる差しかない」という報告もあります。
実は、気密を気にして施工することが当然になると、壁からの漏気はほとんどなくなり、気密の数値を上げる原因箇所のほとんどが「窓」になります。
当社では外壁のパネルの目地や窓周りや設備配管の貫通部には、かなり意識して気密処理をしています。
ここまで来ると、C値を左右するのは、ほとんどが窓の気密性能です。
C値を「0.5以下」とか「0.3以下」とするのは可能ですが、そのためには窓自体の気密性能が高い窓を採用する必要がでてきます。
リビングやダイニングからウッドデッキにつながる窓や、南面に面した子供室や主寝室の窓は、日射取得を多く得るために「掃き出し引き違い窓」とする場合が多いです。
「掃き出し引き違い窓」は大きな開口部が得られ、外部との連続性を得るのに有効な窓です。
ですが、「気密性能が低い」という弱点があります。
「掃き出し引き違い窓」が1つあるだけで、その家のC値が0.1変わることもよくあることです。
この引き違い窓が一番の気密のネックポイントなのです。
家全体の機密性能を高める窓
家全体の気密性能を高めるには、この気密性能が低い「掃き出し引き違い窓」を採用せず、気密性能が高い「開き戸窓」「引き寄せ機能のある窓」を使用する対策が必要です。
せっかくダイニングと連続するウッドデッキを設けても、空間をつなぐ窓が「出入りしにくい」閉鎖的な窓では、ウッドデッキの存在価値も半減してしまいます。
「開き窓」にすると、中間期で通風を確保したい時に開け放しするのが不便だったり、網戸が付けにくかったり、ウッドデッキとの一体感が損なわれてしまったりします。
C値を小さくするために、普段使いの窓が「使いにくい窓」になるのは避けたいですよね。
そこで開放的かつ性能を確保するために「引き寄せ機能のある窓」が有効な手段です。
「引き寄せ機能のある窓」は、一般的な「引き違い窓」と比べると、建設費用全体での窓にかかるコスト比重が大きくなります。
C値を小さくすべき場合も
C値を意識的に小さくしなくてはいけない場合もあります。
ドイツの基準であるパッシブハウス認定をうけるためには、この気密に関して細かな基準が設けられています。
- 冷暖房負荷が 各15kWh/m2以下である
- 気密性能として50Paの加圧時の漏気回数が0.6回以下である
- 一次エネルギー消費量(家電も含む)が120kWh/m2以下である
この3つをクリアする必要があります。
断熱材を厚くして性能の良い窓を採用し、高効率の換気装置を導入すると、冷暖房負荷の基準と一時エネルギー消費量の基準はなんとかクリアすることが可能です。
通常よりかなり断熱材を厚くし、高性能なガラスとサッシを採用し、高効率な換気装置を採用する必要があるのです。
漏気回数については、現地での測定値となるため現場の施工品質が伴わないと、この基準値をクリアできません。
パッシブハウス認定基準である「50Paの加圧時の漏気回数が0.6回」という気密性能は、C値でいうと0.2c㎡/㎡程度となります。
そのため、余裕を持って「C値0.1クリア」を目指す必要があるのです。
いんたーはうすの場合
以前に竣工した「いんたーハウス(伊勢原の家)」はパッシブハウスの認定を受けています。
気密シート施工後、大工工事終了時、完成時の3回気密測定を行いました。
さらに工事段階でも、気密が確保されていることを確認しながら現場を進めています。
パッシブハウス認定を取得する際には基準を満たす必要があるので、確実な性能を確保するために3回の測定を行うようにしたのです。
通常は完成時に1回の測定で、全棟気密測定を行うようにしています。
ちなみに「いんたーハウス(伊勢原の家)」では、気密性能の確保のためにダイニングでは、引き寄せ機能のあるアルスさんの「エコスライド」という窓を採用しています。
ガラス面積にも関わらず、開閉がとても軽く、ウッドデッキとの連続性も確保でき、気密性能も抜群です。
当社では「横浜でちょうどよい家」のコンセプトで家づくりを行っているため、公表するC値については「快適な住宅として必要とされるC値1.0以下」を社内基準としています。
一般的に引き違い窓を複数個所に採用していることもあり、C値競争にならないように「C値1.0以下」を公表にしていますが、実際にはもっと低い値です。
計測した結果、C値の測定値が0.5以下、0.3以下になることもあり、引き違い窓の設置数が少なければ0.1になる場合も。
逆に引き違い窓が多い場合には、0.7となる場合もあります。
C値は設計内容によって結果や数値が変わるため、表向きの数値はあくまで「1.0以下」としています。
なお、床下エアコンを採用する場合には基礎断熱が必須となり、その場合は床下エアコンがしっかりと機能する数値として「0.6以下」を社内目標としています。
あくまで社内の目標であって、保証値にはしていません。
第一種換気装置を設けるなど、換気の効率を求める場合には、気密性能が高い方が設計性能値を確保しやすくなります。
そのためC値0.6などの目標を定めることもありますが、C値を下げていくためには、性能の良い窓を多く採用する必要があり、コストアップにもつながります。
気密性能はある程度(C値1.0以下)の性能を満たしていれば、生活するうえで不利益になることはありません。
逆に過当な気密性能を確保しようすると、利便性やコストメリットが崩れる結果にもつながる可能性があることをご認識いただければと思います。
経年劣化による気密性能への影響
また、経年劣化にも気をつける必要があります。
木造住宅は経年で木材が痩せて隙間もできますし、地震で揺さぶられれば気密テープも切れたり剥がれたりすることもあります。
経年で気密性能が落ちていくことは避けられません。
では、年数が経つとどれくらい気密性能が低下するのでしょうか。
竣工して15年経った家のC値を測定した結果を紹介している新聞(北海道住宅新聞)があります。
増築していたり、ストーブの穴をふさぐことが出来なかった事例を除いて、参考になる2軒のお家の隙間面積の低減率は22.8%と28.2%なっていました。
約3割位低下する可能性があると見て良いでしょう。
コンセプトハウス兼自宅である「六ツ川の家」(建設当時のC値(相当隙間面積)は0.3)でも、経年変化を見るために気密測定した結果があります。
建設当時のC値(相当隙間面積)は0.3でしたが、0.4に変化しました。
隙間相当面積で見てみると、竣工時48cm2 / ㎡だったものが、3年後に63cm2 / ㎡でした。
低減率を計算すると31%です。
やはり3割低下すると想定しておくことがよいことが分かります。
まとめ
木造住宅は、初期の数年で相当に乾燥が進み構造材も痩せます。
耐震性能が低くて、地震時に揺さぶられる家は、さらに気密性能も落ちていきます。
どんなに気密性能を高めても、耐震性能が低ければ、繰り返しの地震を経て、気密の性能が著しく低下していくことになります。
耐震性能はしっかり確保して揺れにくい家にし、木の痩せによって3割低下することを想定した気密性能を確保しておくのが良いでしょう。
経年変化後にC値1.0以下をキープするためには、3割乗じても1.0を超えないように、C値0.7以下で建てておけば安心だと思います。
家づくりをご検討されている方は、目的を失ったC値競争に巻き込まれずに、費用対効果と将来を見据えた性能を確保した家づくりをしていただければと思います。
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