家づくり

適正な価格での家づくり

ここ数年、経営が苦しくなる工務店が全国で増えており、業界紙のトップニュースには住宅会社の倒産の話が並んでいます。

土地価格と建材価格の高騰により、新築住宅建設の意欲が低下してしまい、新築を建てていた住宅会社に新築の依頼が来なくなっているのです。

日経新聞にも、長引く資材高や人件費の高騰が住宅着工を冷やしているという内容の記事が掲載されていました。

今回は、家づくりの適性価格についてお話します。

住宅業界の現状

日経新聞では住宅展示場の来場者が減っており、ハウスメーカーはモデルハウスを減少させているとの内容が書かれていました。

一戸建ての平均価格は700万円以上増加しているとの内容も。

新築住宅を建てる方が少なくなれば、住宅を作る会社の淘汰が進んでしまうのは必然とも言えます。

過去に借金を抱えてしまった住宅会社は、新築の受注が無くなると支払いに充てる現金がショートしてしまうという場合が多くあります。

新型コロナ対策の金融支援策のゼロゼロ融資の支払いが始まっており、受注減と借金返済の二重苦で耐えられなくなってしまって、あえなく倒産となる形です。

工務店が倒産すると起こること

こんな状況が続いていることもあり、他社のメンテナンス依頼の連絡をいただくことが増えています。

先日も設計事務所の方から「過去に設計したお家の施工者が倒産してい、メンテナンスしてくれるところがないので、メンテナンスをお願いできないか」とご連絡を頂きました。

設計事務所にとっても、家守りをしている工務店が無くなるのは避けたい事態です。

前提として、新築時に家を建てた住宅会社がメンテナンスをしていくのが良いからです。

新築時の材料や施工方法を知っているため、メンテナンスの方法も的確に最小限の費用で行うことが出来ます。

「街中にはリフォーム会社はたくさんあるし、広告もよく見かけるから、そこに依頼すればいいのでは?」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。

ですが、実際にはそんな簡単なことではありません。

看板で見かけるリフォーム専門店や、ネットで広告を出しているリフォーム専門店は、自社で大工を抱えることはなく、外注だけで成り立っている会社です。

基本的にはメーカー品のアッセンブル商品の対応しかできないところが多く、大工造作などは対応できない場合が多くなります。

設計事務所が設計した家の場合は、建具や家具が特注の製作品であることが多く、建具枠材も無垢材を使っていることが多いです。

普段からそのようなお家を手掛けている工務店でないと、そもそも出来ないか、出来たとしてもとても高くなってしまうものと思います。

特殊な設備器具を採用している事例も多くあります。

そのような設備器具は、メンテナンスできる人というのも限られていて、その依頼先ルートがあるかないかで機器の寿命も違ってきます。

依頼先のコネクションがなければ、修理できず全交換となることもあります。

設計事務所が手掛ける家は基本的にはディテールに凝っており、そのメンテナンスを行うには普段から設計事務所の施工を手掛けている工務店でないと対応ができないのです。

そのため、先ほどご紹介した設計事務所さんも困ってしまい、いろいろ調べた結果、あすなろ建築工房にたどり着いたものと思われます。

私が修行した工務店も、設計事務所の設計による施工を得意とする工務店で、当時は周囲にも同様の工務店がたくさんありました。

しかし現在はそのような工務店はなくなり、設計事務所によるこだわった設計のメンテナンスができる工務店が本当に少なくなってきています。

適性価格の重要性

設計事務所による施工を得意とする工務店について、以前の経験をお伝えしておきます。

あすなろ建築工房を創業して数年経った頃の話でした。

開業して間もないということもあり、新築をご依頼いただくことはまだまだできません。

修業時代のお客様からのリフォーム工事、設計事務所の設計による新築のお家の施工を行っていました。

修業時代にお付き合いのあった設計事務所を主宰されている設計の先生から「鎌倉市内の新築住宅の見積をお願いしたい」とご連絡を頂きました。

工務店数社での相見積になるとのことでした。

現在は相見積でのお仕事はお請けしておりませんが、当時は仕事がありませんでしたので、喜んで見積をさせて頂きました。

見積を提出してから、その設計事務所の先生からご連絡を頂きました。

「請負金額をこの金額にできないか? ある工務店がこの価格を提示しているので、この金額になるなら、あすなろ建築工房に仕事を依頼したい」とのお話でした。

その金額を聞いて驚きました。

私が提示した金額よりも2割以上低い金額だったのです。

「工務店の粗利は最低でも2割ないと経営が成り立たない」と聞いたことがあると思います。

2割以上安いと、私がお見積りさせていただいた工事費の原価を下回るような金額でした。

その安い見積もりを出した工務店さんは埼玉県の工務店さんとのこと。

「『鎌倉まで施工に来る』と言っているが、さすがに遠いので現場にも近いあすなろ建築工房を優先したい」とのお話でした。

さすがに原価を下回る金額でしたので、設計事務所の先生には「この金額は私たちの原価を下回るため、同じ仕様ではとてもできません。」とお伝えさせてもらい、辞退させていただきました。

その後数ヶ月経った頃、またその先生からご連絡がありました。

「施工していた工務店が倒産したので、工事の続きをお願いできないか」とのこと。

急な話で、他に仕事を手掛けていたこともあり、そのお仕事は辞退させていただきました。

残念ながら、途中まで他社さんが行った工事の引き継ぎは簡単ではありません。

施工の状況が分からないため、すでに行っている工事の内容に責任も持てません。

このように、通常よりも低い価格で請け負う住宅会社さんは存在します。

自転車操業状態になっていて、支払いのためにどうしても仕事が欲しい会社さんです。

先の工務店さんもまさにそんな状態であったのではないかと思います。

そのような会社さんに依頼することで「安くできてよかった」と思われる方もいらっしゃるでしょう。

本当にそれで良かったのかどうかは、数年後に答えが出てきます。

家づくりには適性価格がある!

「正しい金額での施工ではないが、どうしても仕事が欲しい」と安く請け負うことも仕方がないかもしれません。

ですが、それでは会社を長く続けていけません。

景気が上向きであれば、今我慢して将来的に上向く可能性もあるでしょう。

現在のように景気がよろしくない状態では、どこまで耐えられるか「我慢比べ」の状態にもなっています。

設計事務所、施主様にとっても、施工中や完成後の倒産リスクを抱えながら依頼することになります。

工事を行うには、適正な価格があります。

適正価格を下回る価格で受注している住宅会社さんは、現時点でもたくさんあります。

家を建てた住宅会社が、しっかりと家守り工務店としてメンテナンスを行うことで長く住むことができるようになります。

誰が建てたかわからない家をメンテナンスするのは容易ではありません。

現代は、安く買い叩く時代ではありません。

「適正な価格で家をつくる」ことが、今後はより一層必要な条件になるのではないかと思います。

住宅会社は地域に密着して、自分たちで作ったお家や街を守っていく(維持管理する)使命を負っているとも言えます。

「造ったからには維持管理も責任を持つ」会社でなければなりません。

「造りっぱなし」では困ります。

「完成したから後はもういい」では、正しく維持管理ができません。

日本にはもう十分なストックされた住宅があります。

ストック住宅の半分以上は、正しく維持管理されていない住宅となっています。

これから新しく建てられる家は、そんな無管理住宅になって欲しくありません。

建てた人に責任をもって維持管理される家であって欲しいものです。

住宅会社がバタバタと消えて無くなっていってしまっている時代。

これから新築をご計画の方には、造られたお家がしっかり維持管理がなされるよう、適正な価格での家づくりを行っていただければと思います。


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