手抜き工事が起こる理由
私はランニングをしている途中、建築現場を見ることが多いのですが、どうしても気になる現場を時折目撃します。
気になる現場とは、「手抜き」や「知識不足」による不具合事例が生じている現場です。正しく施行されていないため、倒壊の危険性を感じる現場もありました。
せっかく構造性能を高めて設計しても、手抜き工事が行われては肝心の地震時に性能が発揮できないばかりか、相当危険です。
過去にも手抜き工事が問題になった事例が数多く存在しています。今回は、手抜き工事の事例、原因、防止するための私の考えをお話したいと思います。
巷で横行する手抜き工事
「地震に強い頑強構造」「家中心地よく、経済的な注文住宅」と耐震性能も断熱気密性能もよいことを謳っているハウスメーカーさんですが、残念ながら現場はその通りには施工されてはいないようです。
私が目撃したある現場では、次のようなことが気になりました。
気になる点 | このままだとどうなるか |
ホールダウンが正しく施工されていない | 大きな地震が生じたとき、最悪倒壊の危険性がある |
重ねてはいけない基礎気密シートのコーナー部が重なっている | 土台に不陸ができてしまう気密性能も確保できなくなるる |
該当するハウスメーカーさんのホームページでは、事例写真自体も施工方法が間違っているのを発見したこともありました。
過去の手抜き工事事例
2015年、横浜市内のマンションで地盤改良杭のデータ偽装があり、マンションが傾いてしまったことがあり、当時はかなり世間を騒がせました。
杭は地震時には建物の強度に大きく関わり、人の命を預かる大事な部分のため、絶対に手を抜いたり、偽装したりしてはいけないところです。
マンションやビルなどの荷重の重い建築物を軟弱地盤に建設する場合には、地盤(支持層)までしっかりと支持杭を届かせて荷重を伝える必要があります。その支持杭が支持層に届いていなかったのがそもそもの事件の原因でした。
杭が支持層まで届いていないにも関わらず、下請けの杭業者がデータを偽装し、健全な工事であったかに見せかけた工事報告書を提出しました。
そのまま元請けのゼネコンがチェックをしないままマンションを完成させてしまったのです。
数年経ってマンションが傾いていることから調査を行い、杭のデータが偽装されていたことが判明しました。
追跡調査すると、全国に同じような建物が200件以上あったことが分かり、業界では大問題となりました。
下請け(正確には3次下請け)の技術者がデータを偽装したことが原因ですが、「なぜ一人の技術者がリスクの大きい偽装をする必要があったのか」が議論となっています。
2005年には、千葉県の建築設計事務所の元一級建築士が安全性の計算を記した構造計算書を偽造していたことが発覚した耐震偽造事件が発覚しました。
2007年の大手建売業者による「耐震強度の偽装」、2018年には大手ゴムメーカーによる「制震・免震装置の偽装」、2019年には大手アパート開発業者による「防火壁の偽装」と次々手抜き工事、偽装事件が起こっています。
世間を騒がせたため、覚えている方も多いかもしれませんね。
手抜き工事が起こる理由
それでは手抜き工事が起こる理由を解説していきます。
コスト削減による弊害
横浜マンションのデータ偽装事件では、理由の一つとして「コスト削減による弊害があった」と言われています。
マンションデベロッパーの担当者にとっては「売れるマンション」を作るよう上層部から要求されます。
当時はマンションの需要はかなり高く、工事関係者には「出来るだけ早く、出来るだけ安く作る」ことが求められていました。
下請け業者は、元請けのゼネコンから「工費圧縮」や「工期厳守」の圧力があり、「想定外」の追加費用や工期延長を求められない雰囲気がありました。
実際に杭工事の段階で、「予定していた杭の長さでは支持層に届かない」ということもあったようですが、追加の材料を取り寄せて、工期を延長することはできなかったようです。
仕方なくデータを偽装し、健全であったかのように見せかけて工事報告書を作ってしまったと聞いています。
工期やコストのプレッシャーによって引き起こされた事件とされてはいますが、それだけの理由で「危険な偽装をするのだろうか」と疑念も残りますよね。
設計者にとって「経済設計」は技量の一つです。コストを最小限に抑えるため、法律で定められた基準を満たすギリギリまで材料を抑えて設計することを求められていたようです。
経済設計できる人が「優れた設計者」と社内で評価されたりします。この構図は2005年の建築士による耐震偽造事件も同じでした。
仕事への責任の欠如
横浜マンション事件の根底には「こんな仕事やってられっか。適当に済ますしかないな」と思わせるような何かがあったのではないかと思っています。
「自分の会社や発注者に損害を与えよう」という悪意はなくても、仕事に対して責任やプライドというものは一切なかったのではないでしょうか。
当時、報道では再発防止の方法などが解説されていましたが、マンションやビル建設での下請け構造の施工体系では再発防止は難しいと思われます。
前述したように、実際にその後も偽装事件が次々に起こっており、「極度のコスト削減」の結果の弊害であったと思います。
「いかに安く作るか」を意識しすぎて、絶対に手を出してはいけない「安全」部分に手を出してしまった結果です。
耐久性に目をつぶって安い材料を使うことは百歩譲ったとしても、地震や火災に対する「備え」の部分に手を付けてはいけないと思います。
どんなことであれ、人が行うことなので、間違いや失敗は起こりえることです。間違いをチェックする仕組みが必要ですが、チェックをするためのモノサシが必要です。
モノサシとなる基礎データを偽装されたり、そもそもの設計内容が意図的に変えられてしまっては、チェックのしようがありません。善意の被害者が増えるだけです。
手抜き工事を防止するには
では、どうやって「手抜き工事」を防止していけばよいのでしょうか。
適正賃金で仕事に誇りを持てる状況を作る
私は、間違いない仕事を行うためには「その仕事を誇りに思って仕事をしているかどうか」が重要だと思います。
工期やコストのプレッシャーがあると、「やらされている感」が生じてしまい、一時的とはいえプロとしての意識が欠如する判断をしてもおかしくありません。
一人一人の職人が、プロとしての責任とプライドを持って作業に当たれるかどうかが大事です。安い日当で働らかされている人に、責任とプライドを求めても応えられないでしょう。
適切な工期と適切な手間賃があってこそ、プロの仕事を成しえてくれるものと信じています。
家づくりの場合は、家族の命と健康を守る家を作ってもらうのですから、やはりそこはプロに依頼するしかないと思います。
お互いの顔が見える関係で仕事をする
また「クライアント(施主)の顔が見える関係で仕事ができているか」も大事だと思います。
これまで起こった偽装事件は、「誰のための仕事なのか」を感じて仕事ができなかったことも大きいのではないでしょうか。
杭のデータ偽装をした職人は、自分が手掛けるマンションに住まう人々の顔を思い浮かべながら仕事をすることはなかったと思います。
「図面通りに杭を打ち込んだのに、支持層に届いた数値にならない。明日は別の現場に入るように指示を受けているし。追加費用ももらえないし、工期を遅らせることもできない。数値は別のデータを入れておけばバレないだろう。何事もなかったことにして、早く帰ろう。」と思う職人がいてもおかしくありません。
クライアント(施主)の顔の見える関係であれば、大事なクライアントの顔に泥を塗るようなことはしないでしょう。
もしも「自分の家族がそのマンションに住むかも」と考えたら、そもそも安全をないがしろにはしなかったと思います。
「住まい手と作り手の顔の見える関係を構築すること」が一番の方策です。「安くしよう」とすることは大事ですが、それが度を過ぎるとコストと工期にしわ寄せが出るといえます。
まとめ
家族が安心して住まえる住宅にするためには、手抜き工事をされては困りますよね。
手抜き工事を防止するためには、適正な価格。適正な工期、コミュニケーションをとれた関係での仕事が不可欠です。
安くて、早くて、お手軽な家では、安心はできないと思います。「知らぬが仏」ということにもなりかねません。
特に構造に関わる部分は大きな地震が起きたりしたら大変なことになります。これから家づくりをご検討中の方は、しっかり考慮した上で、家づくりを行っていただければと思います。
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