中古住宅のリノベーションってどうなの?
近年、土地と建設価格が高くなりすぎたこともあって、土地からの一戸建て新築を諦めて「中古戸建てリノベーション」をご検討される方も多くなってきました。
「中古戸建てを購入してリノベーション工事をお願いしたい」というお客様にお話をお伺いしてみると、中古戸建てリノベーションをご検討されている感じの方が多いようです。
ただ、思った以上にリノベーションには費用がかかるもので、思ったような住まいにならなかったという方が多い部分も。
今回は、その中古戸建てを購入してからのリフォーム工事を行う際の陥りやすい罠についてお話したいと思います。
中古住宅のリノベーションを検討する理由
中古住宅のリノベーションを検討する理由として、次のようなものがあります。
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国が住宅ストック化に舵を切り、既存住宅のリフォームへの補助金は今後も拡充されていくと予想され、中古戸建てリノベーションはブームになっています。
「土地を買って、注文住宅を建てるよりも安く出来る」と思っている方も多いようですが、リフォーム、リノベーションに要する費用は想像されている以上にかかるものです。
既存の中古戸建ての性能面が劣る物件がほとんどのため、中古戸建ての「断熱リフォーム」「耐震性能向上リフォーム」のニーズは高くなっています。
ただ現実はそんなに甘いものではなく、中古戸建てリノベーションには罠がたくさん待ち構えています。
中古戸建てを購入し、安心して住めるようにするには想像以上の費用がかかり、思うような住まい方ができない方も多いのです。
良い物件が少ない
そもそも、戸建ての中古で条件がよい住宅はなかなかありません。
たくさんの中古戸建てを見てきましたが、大規模な修繕をせずに住める家は少なく、現在の耐震基準や断熱性能を確保しようとすると、建て替えと同等かそれ以上かかることが多いのです。
あまり手を入れずに住める中古戸建てを探した場合、築年数が30年を超えた家では、20軒中1軒あるかどうかというレベルです。
近年の住宅は長く住むことを考えて造られておらず、築年数が経っている場合には、相当な補修や性能向上工事が必要になってきます。
中古住宅は耐震強度に問題
耐震強度も基準法通りかそれ以下の性能しかなく、「等級3」には届きません。
新しい建築基準法に合致していない家は、かなりの耐震補強を行わないと現在の建築基準法に合致するような性能を持ち合わせておらず、築30年~40年の建物は、相当な構造補強が必要になると思った方がよいでしょう。
シロアリ害や腐朽菌の害が進行している場合も多く見受けられ、補修が必要な場合が多く散見されます。
現在の建築基準法で定めた最低の性能を有していないお家については、大きな震災で大破や倒壊という壊れ方をすることも十分に考えられるため、被災の際には「再建」の検討も必要になります。
基礎を補強することは難しく、基礎の耐力自体を確保しにくいため、新築の基礎と同等かそれ以上の費用がかかってしまいます。
「ある程度性能的な不足は許容が可能で、30年くらいなんとか住めればよい」のであれば、中古戸建リフォームもよいでしょう。
ですが、もっと長く住み続けたい場合には中古戸建のご購入は避けた方がよいと思います。
断熱性能が劣る中古住宅
断熱性能的にも、問題は多くあります。
これだけ電気代やガス代が高くなってしまっていますので、光熱費は極力抑えたいところ。
未だに断熱性能が建築基準法で義務化されていない(義務化は2025年度から)ので、今ある既存住宅のほとんどが、残念ながら「冬寒くて、夏暑い家」となってしまっています。
断熱性能を向上させるには、外壁か内壁かのどちらかを解体して、断熱材を再充填する必要があります。
既存の建物は、最近の家と比べると性能的にかなり見劣りしてしまいます。
「断熱リフォーム」「耐震性能向上リフォーム」を行うには、外壁の壁を開けて、耐震補強と断熱材の充填が必須です。
私もかれこれ20年以上リフォーム工事のお打合せで多くの住宅を見てきましたが、「開けてみてびっくり」という既存住宅はとても多いです。
築30年前後の住宅で、浴室が在来工法(ユニットバスでない)の場合は、9割以上の確率で、浴室周りにはシロアリ害が出ているように感じます。
断熱性能が不足していると、寒さから石油ストーブやガスストーブを使っている家が多く、壁体内結露を起こしてシロアリ害や腐朽菌による腐朽が進行している可能性があります。
「壁体内結露の危険性」については、過去にブログにも書いています。
中古物件の場合は、本当にリフォーム工事に着手してから「開けてみてびっくり」ということも多いのです。
以上のように、中古の戸建を購入して、長く快適に住もうとすると、傷んだ部分を補修し、耐震補強し、断熱改修することになり、1000万円では足りません。
築年数が20年以上経っている場合には、屋根や外壁の取り換えや再塗装も必要で、塗装だけでも少なく見積もっても300万円はかかります。
屋根や外壁の交換、キッチンや浴室や洗面台やトイレの設備器具の交換など、設備器具交換だけでも最低300万円以上かかってきます。
以上のように、性能を向上して住み続けようとすると、相当な費用が必要になるのです。
なぜ中古住宅のリノベーションの費用は高いのか
なぜこんなに高いリフォーム費用が必要になるかというと、新築時の性能が今のニーズにまったく届いていないことが一因です。
長く住まうための維持管理もされていない家が多いことも一つの要因と言えるでしょう。
中古戸建てのリノベーションを希望する方は、リノベーション工事の予算を1000万円以下で考えられていることが多いように感じます。
ですが20年~30年経過した中古戸建ての性能を向上させるには1000万円では全く足りません。
中古戸建てを購入しいざ改修工事をしようと思っても、本来の希望の性能にすることは困難です。
単なる美装リフォームで終わってしまうということにもなりかねません。
美装リフォームとは、外壁と屋根の塗装をして、壁紙を張り替えて、キッチンや浴室の取り換えをするだけの工事で、耐震性能や断熱性能の向上は伴いません。
リスクを感じたまま住まい続ける必要が出て来てしまいます。
新築であれば、現在の耐震基準以上の耐震等級3やエアコン一つで家全体を暖られる家だって簡単にできますが、中古リノベだと、耐震等級や断熱性能は現行法ギリギリを確保することが精一杯です。
費用を掛ければ新築以上の性能とすることも可能ですが、建て替え以上の金額がかかるのであれば建て替えにするという判断になるでしょう。
中古住宅のリノベーションの場合は、費用対効果を考えると、通常手掛けている新築の性能まで上げることはせず、低いレベルでの性能確保となってしまうことが多くなります。
中古でも良い住宅とは
築年数が経っていても、しっかりしている住宅も20軒中1軒はあります。
知識のある設計者が設計し、良い大工が丁寧に作り、工務店の管理もしっかりできている家です。
また大手ハウスメーカーが建て、メーカーの指定の維持管理がされている家もポテンシャルは保たれています。
将来の可変性にも柔軟に対応できるように新築時から考えられ、無垢の材料が使われているため、切ったり付け足したりと後からも手を加えやすいのです。
そのような家は、新築時から思い入れを持って住まわれており、そうそうに売りに出るものではないのが現状なのです。
良い中古住宅を見極めるには
良い中古住宅を見極める判断の一つに「建築確認済証」があります。
「確認済証がない」という家も多いのですが、「建築確認済証」は本当に大事な書類です。
30年以上前の住宅は、「確認申請書はあるけど建築確認済証がない」という家もたくさんあります。
ですが、しっかりと設計者が携わっていれば、当然のことながら確認検査も受けているのです。
そもそも日本の住宅は、将来売却することを想定して建てていないという根本的な問題があります。
アメリカや欧州などでは、人生のステータスに合わせて「住み替え」することが一般的なので、購入時から「売ること」を考えて、住まいながら性能向上を図っています。
賃貸住宅と同じ感覚で、持ち家も「住み替え」がされています。
残念ながら日本では戸建て住宅の場合は、将来売却することを考えて購入または建設される方は少なく、「売り放し」「建て放し」が一般的です。
そのため中古物件は程度が悪く、リノベーションに耐えうるだけの不動産価値がないものがほとんどとなります。
まとめー中古住宅をリノベーションするときの心構え
中古戸建をご購入してのリフォーム工事とする場合は、「この家を気に入っているのでリフォームしてでも住みたい」という強い意志がある場合に限定するのがよいと考えています。
本当に申し訳ないのですが、「他人」が住んできた家に、お金をかけて性能向上アップ出来るほどのポテンシャルが高い既存住宅は少ないです。
親や祖父などが建てていて、自分が育った家など「思い入れ」があって「大事に住み継ぎたい」と思える家が対象になるものと考えています。
以上でお分かりいただけると思いますが、コスト削減のために「中古住宅リノベ」を検討している場合は、結果として将来に大きなお金を使うことになりますのでお勧めできないと言えるでしょう。
中古戸建をご検討される際には、くれぐれも気をつけて頂ければと思います。
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